【怖い話|実話】短編「犬おじさん」人間が一番怖いと思う話(宮城県)

【怖い話|実話】短編「犬おじさん」人間が一番怖いと思う話(宮城県)
投稿者:ぽん さん(30代/女性/主婦)
体験場所:宮城県T市

これは宮城県のとある街に引越してまだ間もない時に体験したお話です。

夫の転勤が決まり、私は仕事を辞めて宮城県に引越すことになりました。

引っ越し先の最初の印象は、今まで住んでいたところとは違い都会的で賑わっている場所だなと感じました。

引っ越し後、私も改めて職探しを始めたのですが、仕事が見つかるまでの間も家に引きこもっていては身体に悪いと思い、ウォーキングを始めてみたのですが…

ウォーキング開始から一週間ほどが経った頃でした。

その日もいつも通り住宅街のウォーキングルートを歩いていると、

「ワンワン!」

と、突然後ろから犬の鳴き声が聞こえたかと思うと、いつの間にか目の前に白くて大きな犬が立ちはだかっていました。

余りに一瞬のことで、後ろから走ってきた犬が目の前に回り込んだのだと理解できずに、私は呆然と立ち尽くしてしまいました。

すると、不意に目の前の犬がこちらに向かって飛び掛かってきました。

その勢いが強すぎて、私は大きく後ずさりしました。

犬はじゃれているつもりなのかもしれませんが、その大きさは立ち上がると身長156cmの私と同じくらいあります。

どうにか逃げれられないかと抵抗してみるも、大型犬の力には勝てません。

とにかく助けを求めようと周囲を見渡してみたのですが、ひと気が全くないことに私は驚きました。

(誰もいないなんて、歩いていて気が付かなかった…)

とにかく目の前の危機をどうにかしようと焦っていると、

「その犬、よく逃げちゃうんだよねぇ」

と、さっきまで誰もいなかったはずの後方から声がしました。

とっさに振り向くと、私の背後5mほど先に、ニヤニヤと笑う男性が立っていました。

男性の身長は175㎝ほどで、60代くらいの年齢に見えます。
小太りでチェックのシャツを着ていて、頭は薄く、残った毛髪もほとんどが白髪でした。

(…この人が飼い主なのか?)

そう思ったのですが、男性は少しも慌てる様子をみせず、手を後ろに組み、犬に襲われている私を薄ら笑いを浮かべながら見ているかと思うと、

「その子、私のこと嫌がるから、あなたが犬を連れて家に来てよ」

そう言って、すぐそこにある一軒家の門扉を開けて庭先に入っていきました。

その家の庭は高い柵と扉で覆われています。

犬をよく見ると、首輪もリードも付いていません。

(リードが付いてないってことは散歩中じゃないよね?)

(でも、どんなに大きな犬でもあの柵は飛び越えられないでしょ?)

(じゃあ、リードなしであんな大型犬を外に放したってこと?)

(それにどうして私が他人の犬を他人の家に連れ帰らなきゃいけないの?)

(そもそも自分の犬が他人を襲っているのに何も思わないの?)

と、飼い主の不可解な言動と行動に様々な疑問が浮かびましたが、とにかく離れない犬を無理に引きずるようにして、私はその家の門扉をくぐり庭先に入りました。

すると、既に家に入っていた男性がベランダ越し声を掛けてきました。

「ほら、早く家に上がって」

(え?犬ではなく…私が…?)

門扉をくぐった犬は既に私から離れ庭の中を走り回っています。

瞬間、ゾッとしました。

頭いっぱいに浮かんだ疑問が危険な予感に変わりました。

(この人、私を家に入れたがっている…)

そう思うと同時に私は、

「あ、大丈夫です…」

と声を絞り出し、即座に門扉を閉めて逃げるようにそこから去りました。

怖くて怖くて、震えながら走って家に帰りました。

息を切らせて自宅玄関を入ると、しっかりと鍵を閉め、リビングで15時という時間を確認したまま、私はぐったりと眠ってしまいました。

夜、仕事から帰宅した夫に今日の出来事を話すと、夫はこう言いました。

「それって、君の他に誰もいないタイミングを見計らってわざと犬を放したんじゃないの?」

うすうす感じてはいましたが、夫に言われ確信しました。

いい大人が、明るいうちに人目のつくところを歩くのも恥ずかしいなぁと、ひと気の少ない…と言ってもいないわけではないのですが…そんなルートを選んでいたのもよくなかったかもしれません。

でももし本当に、女性を家に上げるためにあんな大型犬をけしかけているのだとしたら、とても正気の沙汰とは思えません。

もし仮に、私が怪我でもしていたらどうなっていたのでしょう…

それはそれで怪我の治療と言って家に連れ込もうとするのでしょうか…

本当に気味の悪い体験でした。

それからというもの、ウォーキングはひと気のある道路沿いのコースを選ぶようにし、時間も道も不規則にしています。

引っ越したばかりの土地であんなに怖い思いをするとは、夢にも思っていませんでした。

何よりも一番怖いのは人間だなあと、改めて感じた出来事でした。

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