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【怖い話|実話】短編「銀嶺の歩荷」不思議怪談(長野県)

【怖い話|実話】短編「銀嶺の歩荷」不思議怪談(長野県)
投稿者:ぽん さん(20代/女性/学生)
体験場所:長野県戸隠スキー場

戸隠連峰の険しい岩壁が、まるで天に突き刺さる牙のようにそびえ立つ、長野県にある戸隠スキー場は、古くから修験道の聖地として知られる戸隠山の懐に抱かれています。
ここで私が体験したのは、単なる迷子や見間違いでは片付けられない、この土地の「核」に触れてしまったかのような不思議な出来事です。

その日は雲一つない快晴でした。

戸隠スキー場の最上部、標高1,748mの瑪瑙山(めのうやま)山頂からは、北アルプスや高妻山(たかつまやま)が神々しいまでの姿を見せていました。
私はその絶景を写真に収めようと、ゲレンデの端にある林の近くまで板を歩かせました。戸隠の雪は驚くほど軽く、踏みしめるたびにギュッ、ギュッと密度の高い音が響きます。

写真を撮り終え、ゴーグルを直そうとした時でした。
ふと林の奥から、「シャン」と、澄んだ鈴の音が聞こえてきました。

スキー場の喧騒の中では聞き逃してしまいそうな、か細くも鋭い音。
私は誘われるように、立ち入り禁止のロープ際まで寄ってみました。

すると木々の隙間から、一人の老人が歩いてくるのが見えたのです。

その老人はスキーヤーではありませんでした。白い装束に身を包み、背中には古びた背負子を背負っています。まるで時代劇から抜け出してきたような姿で、戸隠神社の中社や奥社で見かける神職の方のようにも見えましたが、それにしてもあまりに質素です。

老人は、腰が埋まるほどの深い新雪の上を、まるで畳の上を歩くかのような軽やかさで進んでいきます。

「危ないですよ!」

思わず私は声をかけていました。
そこはコースの外、しかも急斜面の崖へと続く林の中です。

しかし老人は私の声に反応するどころか、こちらを見ようともしません。

老人が私の数メートル横を通り過ぎようとした瞬間、再びシャンと鈴の音が鳴りました。
その音と同時に、私の鼻を強烈な杉の香が突き抜けました。

それは街で嗅ぐ線香のような匂いではなく、雨上がりの戸隠の奥社参道を歩いている時に漂う、あの冷たく厳かな樹木の香りそのものでした。

老人はそのまま、スキー場のコースを横切り、反対側の急斜面へと消えていきました。

私は呆気にとられ、しばらくその背中を見送っていましたが、ハッと我に返り、咄嗟に老人が歩いてきた跡を振り返りました。しかし、そこには足跡一つ残っていませんでした。
新雪の上には、風が描いたシュカブラが綺麗に残っているだけで、人間が歩いた窪みはおろか、動物の足跡さえもなかったのです。

一体あの老人は何者なのか、混乱した私は近くにいたパトロール隊員を呼び止め、「今、白い服の人があっちへ歩いていった」と伝えました。
隊員は私の指差す方を見て、一瞬だけ表情を強張らせましたが、すぐに穏やかな顔でこう言いました。

「ああ、また出ましたか。戸隠じゃ珍しいことじゃないんですよ。ここは天岩戸が飛んできた場所ですからね。たまに『通り道』が重なることがあるんです」

隊員の話によると、瑪瑙山から飯縄山(いいづなやま)にかけては、古くから修験者や天狗の伝承が絶えない場所なのだそうです。

翌朝、私は戸隠神社の社務所に寄って帰ることにしました。
神職の方に事情を話すと、彼は鈴をじっと見つめ、「これはお守りとして、山があなたに預けたのかもしれませんね」とだけ言って、静かに微笑みました。

戸隠スキー場が、一つのレジャー施設として大変優れていることは間違いありません。ですが、それだけの土地ではないのでしょう。一歩ゲレンデから外れれば、そこは千年以上もの信仰が息づく神域なのですから。

あの老人が何者だったのか、なぜ足跡がなかったのか、今となっては確かめる術もありません。しかし、戸隠のゲレンデを滑るたび、私はあの杉の香りと鈴の音を思い出し、背筋が伸びるような思いがするのです。

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