
体験場所:ロンドンのホテル、および東京都練馬区の実家
それは「真空パック」のような感覚から始まりました。
10代から20代にかけての多感な時期、私は頻繁に「金縛り」を体験しました。
眠っている最中、急に手足が重くなり、全身がフリーズするあの現象。一般的には、睡眠中、脳が覚醒しているのに身体が動かない「睡眠麻痺」として説明されるようですが、私の場合、医学的な説明で片付けられるようなものではなく、リアルな手触りの感覚を伴うものでした。
それはいつも決まった予兆から始まります。
真夜中、眠っている時、ふと気配に目が覚めると、突如、部屋全体が強い光に包まれます。すると自分がまるで「真空パック」の中に閉じ込められたかのような、強い圧迫感に襲われるのです。
この時、私の意識は日常の波長から外れて、「普段は認知できないどこかの領域」と、ラジオみたいに周波数が合ってしまう、そんな体験を伴うのです。
初めての体験は高校生の時でした。
両親が家を増築し、私に新しい個室を作ってくれたのですが、その部屋で眠るようになった日から、奇妙な現象が頻発し始めたのです。
夜な夜な、私の部屋の窓から別の窓へ、様々な存在が「通りかかり」ました。それはまるで、私の部屋が異界の住人たちの「通り道」になってしまったかのようでした。
ある夜は、枕元に気配を感じると、いつもの予兆が始まりした。強い光と真空パックされたような圧迫感。目を開けると、そこにはおじいさんのような顔をしたノーム(小人)が立っていました。彼は何がそんなに可笑しいのか、高くて小さな声でクスクスと笑いながら、ずっと私を見下ろしていました。
また別の夜。
いつもの予兆のあと、威勢の良い掛け声で目が覚めました。
「エイサ、ホイサ、エイサ、ホイサ、」
姿こそ見えませんが、明らかに数人の屈強な男たちの掛け声、そして何かを運びながら私の部屋を横切って行く気配を感じました。
そんな現象に対して恐怖がなかったわけではありませんが、毎晩のように繰り返される「異界のロードムービー」のような状況を、私はいつも、どこか冷めた観察者のような気持ちで眺めていたのです。
そんな金縛り体験は、海を越えた異国の地でも、形を変えてやってきました。
1993年、ロンドンに3週間ほど短期留学していた時のことです。
その夜、寝返りを打ち壁側を向いて眠っていた私は、急に直感しました。
「あ、また(金縛りが)来る」
直後、背中側にいつもの眩しい光が溢れ出し、重い圧迫感が私をベッドに縛り付けました。
すると、ふと耳慣れない音が聞こえてきました。
「シャリッ……シャリッ……」
それは、誰かが瑞々しいリンゴをかじっている、非常にクリアな咀嚼音でした。
目を閉じていても、はっきりと認識できる、背後に立つ誰か。その人物は、金縛りにあっている私のすぐ後ろで、悠然とリンゴをかじり続けています。背中越しでも感じるほどの、強い光の中に現れたそれは、背の高い、金髪の若い英国人男性でした。
彼はただ「シャリッ、シャリッ」とリンゴをかじりながら、静かに私を見つめていました。
「さすが、英国といえばアップルということか」
そんな妙な納得感を覚えるうちに、光は次第に小さくなり、英国人男性の姿も闇の中へと消えていきました。
残されたのは、静まり返ったロンドンのホテルの一室で、壁に向かって横になっている私だけでした。
国が変わればそこに漂う浮遊霊たちの「お作法」も変わるようです。
もしあなたが旅先で金縛りにあったなら、耳を澄ませてみてください。その土地ならではの「音」を、彼らは奏でているかもしれません。

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