【怖い話|実話】短編「ひょっとこ」不思議怪談(山形県)

【怖い話|実話】短編「ひょっとこ」不思議怪談(山形県)
投稿者:すずか さん(30代/女性/会社員)
体験場所:山形県N市

私が山形県N市の保育園に通っていた時のこと。
もう30年以上前になる。

その保育園の散歩には決まったコースがあった。今思えば園児を散歩させるにしては結構な距離だったと思う。保育園を出て道路を渡り、住宅街をぐるっと一周する。体感では1km以上あったのではないかと思う。

散歩の目的地は、とある民家にある大きなウサギ小屋だった。
住民の許可を取っていたのかどうかは知らないが、到着するとみんなでそのウサギを眺め、草を食べさせたりして「かわいいね」と言って帰る。今考えれば、園児をたくさん歩かせることで円滑に昼寝を促す目的もあったのだろう。結構な頻度でその散歩コースを歩いた記憶がある。

当時の住宅地には古い木造家屋がまだ多く残っていたし、それに今みたいに車通りは激しくなく、のんびりとした散歩を楽しめていたと思う。

その散歩の途中、木造の古びた平屋の家があった。
道路に面する側に窓はなく、大きな壁のように見えた。ただ、家屋の脇に狭い通路があり、そこに一つだけ窓があるのが分かった。窓の内側には、調理に使うボールやお玉が引っ掛けてあったから、台所の窓だったのだろう。

隣家との間、狭くて薄暗い通路に向いたその窓は、子どもの目にはちょっと不気味に見えた。というのも、その窓はいつも開いていて、常に中から何かが顔を出していたから。人間の顔だとは思うけど、分からない。例えるならひょっとこのような顔。いつもそいつは無表情にこっちを見ていた。

散歩の度にそこを通るのだから、私は毎回その顔を確認してしまう。「今日もいる」と認識すると、私は顔を伏せて少し足早にそこを通り過ぎた。

不思議なことに、私が毎回そのひょっとこを見ているにも関わらず、他の子や先生がそれを話題にすることはなかった。私以外には見えていないのか、それとも気付いても口に出さなかったのか、それは分からない。なぜなら私自身も誰かに話すことはしなかったから。

卒園を迎えるまでの間、私は何度もひょっとこを見ていたが、結局そいつの正体は分からないし、誰にもそのことを話そうとはしなかった。

小学校は別の地区の学校に入学したため、その家の前を通ることはなくなり、自然と記憶も薄れていった。

けれど6年後に入学した中学校は、私の通っていた保育園のすぐ隣にあり、部活帰り友達と歩いて帰るルートが正にあの平屋の前を通る道だった。

久しぶりにその家を見た時、あいつがまだいるかと、思わず通路脇の窓を覗いた。
けれど、そこにはもう何もいなかったし、窓も閉まっていた。

それから中学の間、その家の前を通るたび何度も通路の窓を覗いたけど、常にそこには薄暗い通路に面して古びた窓があるだけだった。

試しに一度、一緒に帰っていた友達に「ここの家にいつも顔みたいなのなかった?」と聞いたことがあったが、「何それ?」と、鼻で笑われるだけだった。

保育園の頃はあんなに何度も見ていたひょっとこは一体なんだったのだろうか。子どもの頃の幻だったのか何なのか…あれ以来そいつの顔を見ることがないから分からなかった。

ただ、あの平屋には老夫婦が住んでいたと後に聞いた。
それから私が社会人になってからのこと、あの家で介護疲れが原因とされる心中事件があった。じいちゃんが介護に疲れて、ばあちゃんを手をかけてしまったそうだ。

もしかしたらあのひょっとこの顔と何か関係があるのかもしれないし、全くないのかもしれない。結局のところ今となっては何も分からないままなのだが、私の記憶の中には、今もこちらをジッと見つめているひょっとこの顔が離れないでいる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました