
体験場所:静岡県静岡市の某公園
これは40年ほど前、私の叔父が静岡で勤めていた頃に体験した話。
当時は『深夜まで残業するのが当たり前』と言われる時代、その日も叔父は遅くまで残業し、帰りに同僚と居酒屋に立ち寄った。
深夜にも関わらず真夏で非常に蒸し暑い夜だった。冷房の効いていない店内ではビールもすぐにぬるくなり、暑さに耐え切れなくなった叔父がこんなことを言い出した。
「今から近所のプールに忍び込んで、涼んでから帰ろう」
当時、そのプールは施錠がされておらず、深夜でも忍び込める状態だったらしい。
少し尻込みしながらも、同僚もその提案に同意した。
店を出て少し歩いた先、プールのある公園を横切ろうとした時のこと。
公園の向こうの方に、深夜にも関わらず、ブランコに乗る子供とおじさんがいるのが見えた。親子のように見える。
「…こんな時間に、親子で遊びに来たのか?」
そう言って叔父と同僚は顔を見合わせると、不審に思ってブランコの方を凝視した。
「なんでこんな深夜に子供連れで出歩いているのだろう。ちょっと聞きに行ってみよう。」
酔いも回っていたせいか、叔父がそんなことを言ってブランコへ向かい歩き出した。
「おい、家庭の事情があるのかもしれない。やめとけよ。」
と言う同僚の制止も聞かず、叔父はズンズンとブランコに歩みより、遂に子供に声をかけた。
叔父「おい、僕。こんな時間にお父さんとブランコ乗ってて楽しいか?」
子供「・・・」
叔父「・・・?どうした?大丈夫か?」
叔父はそう言いながら子供の肩に手をかけ、軽く揺らした瞬間、
”ボトッ”
音を立て子供の足元に何か赤黒い塊が落ちた。
(なんだ?)と思い叔父がそれを確認しようとすると、子供がゆっくりとブランコから立ち上がった。
その姿を見て、叔父は地面に何が落ちたのかを悟り、全身が粟立った
子供のお腹には大きな穴が開き、そこから内臓が飛び出していた。
声も出せずにただただ固まっている叔父を、ゆらりと見上げる子供。
その顔を見て、叔父は更に全身の血の気が引いた。
目に眼球がなく、ブラックホールのようなその暗闇が、叔父に向けられポッカリと開いていた。
「早く!早く走ってこっち来い!逃げるぞ!」
遠くから同僚の叫び声が聞こえた。
その声で我に返った叔父は、脇目も降らずに必死に走り同僚と公園から出た。
「ここまで来れば大丈夫だろう…」
と、ゼーゼー肩を上下させながら、ゆっくりと後ろの公園を振り返ると、ブランコに親子の姿はなかった。
「助かった~」
同僚と二人で胸を撫でおろし、自動販売機で飲み物を買って近くのベンチに腰を下ろした。
ようやくまともに話せるくらいまで落ち着き、先程の出来事について振り返る。
「あれは何だったんだ・・・夢、じゃないよな・・・?」
そう言って、叔父は自分の頬を抓ったがやっぱり痛い。
すると同僚が天を仰いで言った。
同僚「わからない・・・でも、こんな深夜に公園のブランコなんて、”いかにも”じゃないか?」
同僚「俺も咄嗟に叫んだけど、お前がすぐに走りだしてくれて良かったよ。間に合わなかったと思うとゾッとする・・・」
叔父「あぁ、助かったよ。あの子供の姿を見て一瞬気を失ってた気がしたくらいだからな」
同僚「いや、子供じゃなくてさ・・・子供の隣に座っていたおじさんが、後ろから、お前に抱き着こうとしていたんだよ・・・」
叔父「は・・・?」
同僚:「あのまま抱き着かれたらヤバイと思って、咄嗟に叫んだんだ・・・。本当に間に合ってよかった」
思いもしないことを言われ苦笑いするしかなかった叔父は、改めて同僚にお礼を言い、二人は帰路に就いた。
この経験後、叔父は二度と深夜の公園には近付かなくなったそうだ。
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