体験場所:山梨県甲府市の実家
山梨県甲府市の私の実家は、母親と私、それと祖父母の4人で暮らすごく普通の家庭で、私が高校の頃まではごく平凡に暮らしていたのですが、祖父母が病気で亡くなり、私が大学入学と共に上京した頃から、母に角が生え始めたのです。
角は、母のおでこに現れました。
最初の内は「吹き出物ができた」と、市販薬を塗って済ますくらいの本当に小さなものでした。
それがだんだん大きくなり、最終的には直径1~2センチ、高さ2~3ミリほどまでに膨らんだのです。
「吹き出物が巨大化した!」
と言って笑っていた母。
ですが、ある日、電話を掛けてきたかと思うと、
「人間ドッグに行ったついでに額の吹き出物も診てもらったんだけど、あれ、吹き出物じゃなくて、『骨』、なんだって…」
と、不思議そうに話しました。
どうやら何らかの事情で骨が隆起しているのだそうです。
診てくれたお医者さんの話によると、特に病気とかの前兆ではないようなので一安心。
「なんだ、骨かよ!?」と言って、その時もまだ笑っていたのです。
ただ、その頃からでした。
母の周りで不思議なことが起こるようになったのは。
具体的には、物がよく壊れるようになったのです。
実家には白鳥の形をしたガラスの置物(厚さ15センチほど)があったのですが、ある日、母がその近くを通ると、『カチャン』と鳴って、それが綺麗に真っ二つに割れていたそうなのです。ぶつかったわけでも、落としたわけでもないのにです。
ビックリした母から写メが送られてきたのですが、本当に刃物でスッパリと切られたかのように綺麗に真っ二つでした。
そこまで割れたなら他の部分も一緒に壊れそうなものですが、胴体が横に真っ二つになった以外、他は全く破損していませんでした。
他にも触っていない皿やコップが割れるなどの現象が相次ぎました。
母はその都度、写メを送ってくれるのですが、そのどれもが意図的にやったとしてもそこまで綺麗に割れるかと言うほど、名刀でスッと真っ二つに切り分けたような、本当に断面の美しい割れ方でした。
更に、母の被害(?)を被ったのは器だけではありません。
母が使っているノートPCが頻繁に壊れるようになったのです。
PCが苦手な母は、何かあると直ぐに私に連絡をくれていたのですが、その頃の壊れ方と言えば「突然キーボードが反応しなくなった」とか「画面が急にブチッと暗くなった」とか、それまであまり聞かないような症状ばかりでした。
1度も使っていないUSBの挿し口が、いつの間にか折れていたこともあります。
買ってからまだ数週間だし、ほぼ自宅内で動かさずに使っているPCだったので、こんなに壊れるとは考えられず、2人で「おかしいねぇ」と言っていました。
そんな不可思議な事が起こる時に限って、母の角が腫れました。
普段はちょっと出っ張っているだけなのに、変な事が起こるとたいてい角が熱を持って痛み出し、通常より腫れ上がることが多かったようです。
たまたま、当時私が通っていた大学でその話をしたら、江戸文学に詳しい教授が「江戸時代にも似た話があるよ」と教えてくれました。
具体的な人名は忘れてしまいましたが、江戸時代の武士にも頭に角が生えた人がいたらしく、色々と記録も残っているそうなのです。
その武士の人の場合は、母とは違い皮膚を突き破って生える本格的な角だったそうで、説明の際に見せてもらった挿絵には、しっかりと頭から飛び出す二本の角が描かれていました。
「・・・だから案外、現代でも角が生えるってこと、あるんじゃない?」
と、その教授は真面目に話されていました。
あれから5年。
今は角も落ち着いて、自然と小さくなり、パッと見では分からない程度になってくれたようです。
母の近辺での不可思議な現象も最近では聞かなくなり、あれは一体何だったのか、今でも謎のままなんです。
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