【怖い話|実話】短編「抓まれた兎」不思議怪談(沖縄県)

【怖い話】不思議実話|短編「抓まれた兎」沖縄県の恐怖怪談
投稿者:まつのみ さん(40代/女性/会社員)
体験場所:沖縄県T市の友人宅

もう20年近く前になる話なのですが、忘れられない体験です。

当時、沖縄に移住して一人暮らしをしていた友人のAちゃんに誘われ、私は大学の夏休みの間、Aちゃんのアパートに居候させてもらったことがありました。

Aちゃんの住むアパートは、那覇からは少し離れていましたが、沖縄らしさが残る静かな場所にある新築で、部屋も広くて、とても快適な日々を過ごさせてもらっていました。

Aちゃんは一足先に就職していたので、居候中の私が、掃除や洗濯、ごはんを作ったりしてAちゃんの帰りを待つような、そんなのんびりとした日々を送っていました。

Aちゃんが大切に飼っていたうさぎのクロちゃんのお世話も、居候の私の大切な仕事の一つでした。

うさぎはあまり芸をしたり人に懐いたりしないと思っていたのですが、クロちゃんはとても人懐っこく、温厚でかわいくて、直ぐに私も愛着を持つようになりました。

Aちゃんの帰宅後、クロちゃんにお部屋をお散歩させながら、二人でのんびりお酒を飲むのも楽しみの一つでした。

その日は、Aちゃんの仕事が休みで、二人で街に遊びに出掛けました。

電車がない沖縄では、外出のほとんどが車を使うため、『終電で帰る』という習慣もなく、深夜まで遊ぶことが多々ありました。

その時も深夜まで街で遊んだ後、Aちゃんの運転でアパートに帰っていました。

「今日は星がきれいに見えそう!」
「ちょっと外に出てみる?」

都会育ちの私たちにとって、星が見える夜も一大イベントです。
県道の路肩に車を停めて、夜空の星を眺めてみることにしました。

アパートにほど近いその辺りは、車通りも少なく、時折すれ違う車が僅かにある程度です。もちろんバスも終わっている時間帯なので歩いている人も全く見当たらず、街灯も少ないので星を見るには最高のロケーションでした。

路肩に停めた車の助手席から、街路樹を跨いて歩道に足を踏み入れようとした時でした。

(え?これ、やばい…)

足裏の半分が街路樹の植わった土を踏みしめてしまったのですが、その時とんでもない違和感を感じたんです。

草に触れた感触とか濡れた土の質感とか、そういった感覚ではなく、踏み入れてはいけない場所に足を踏み入れてしまったような恐怖感が全身を走り抜けたのです。

運転席を出て車道側から歩道へ回り込んできたAちゃんも、同じように何かを感じたらしく、星を見ようとさっきまワクワクしていた顔が、いつの間にか不安気なものになってこちらを見ています。

「なんか…感じるね…」
「うん。良くない感じがする…」

私たちはすぐに車に戻り、その場を離れました。

そこから、いつもの帰り道が全く別の道のように感じられ、さっきまで窓から吹き込んでいた心地よい風も、なんだか寒々しく感じてしまい、私は直ぐに窓を閉めました。

さっきの恐怖感をどう言葉にしていいのか分からず、Aちゃんも私も黙ってアパートまで車を走らせていました。

今思うと、あの感覚は、

“この場所に受け入れられていない”

それが言葉ではなく、直接体を通して伝わって来るようでした。

やっとの思いで帰宅し、部屋の明かりを点けると、ようやく少しだけ気持ちがほぐれるような気がしました。

「クロちゃ~ん~~なんか怖かったよ~!」
「なんかやばい感じがしたよね?!」

うさぎのクロちゃんに話しかけながら、部屋をお散歩をさせようといつも通りクロちゃんをゲージから出しました。

すると、いつもならトコトコピョンピョンと好きに部屋の中を歩き回るクロちゃんが、今までに見たこともないような動きをしてるんです。

どこか跳ねずらそうで、なにか嫌がるように身をよじらせて、ピョコン、ピョコン、と不自由なジャンプを繰り返します。まるでその長い耳を、誰かにつままれているように見えました。
それが異常な姿であることは、付き合いの短い私でも分かります。

「クロ!どうした?!」

Aちゃんもパニックでした。

実は私もAちゃんも言葉にこそしませんでしたが、自分たちが「なにか」を連れて帰ってしまった、という確信がありました。さっきの場所から。

するとAちゃんはハッと思い出したように、携帯で誰かに電話を掛けました。そして電話先の誰かにこれまでに起きたことや感じたことを説明すると、何か納得したように電話を切りました。

後から聞いた話では、電話の相手は沖縄の職場の方のようでした。

今日足を踏み入れた場所には夜は近付かない方がいい。
家には盛り塩をして、自分たちも塩を舐めて清めなさい。
そう言われたそうです。

私たちはクロちゃんをケージに戻した後、直ぐに言われた通り部屋に盛り塩をして、塩を舐めました。

その日はシャワーを浴びるのも怖かったのですが、私たちは部屋と浴室で大声で会話しながら交互に入りました。

そして迎えた翌朝。
いつも通りの穏やかな朝でした。

ゲージからクロちゃんを出すと、いつも通り自由に部屋の中を歩き回っているのを見てホッとしました。

沖縄は色んなことがあった場所です。
私には到底分からない不思議なことも沢山あるのだろうと思うと同時に、地元の方のアドバイスは真摯に受け止めようと思う体験でした。

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