【怖い話|実話】短編「水泳の先生」不思議怪談(岩手県)

【怖い話|実話】短編「水泳の先生」不思議怪談(岩手県)
投稿者:おきのぶ さん(26歳/男性/会社員)
体験場所:岩手県〇〇町〇〇中学校

これは私が中学3年生の時の話です。
今でもふと思い出すような、不思議な体験をしました。

当時、バスケットボール部に所属していた私は、中3の中総体地区大会で敗れ、そこで部活を引退し、受験モードに切り替えようとしていた頃のことです。

受験勉強に集中しようと部活を引退したものの、まだ半年以上先にある受験にモチベーションが湧かず、気持ちが乗り切れないままダラダラと日々を過ごしていました。
そんな時、友人から「特設の水泳をやらないか?」と声を掛けられたのです。
特設とは、限られた期間のみ活動する部活動のことです。
小学生までスイミングスクールに通っていた私は、その友人の誘いを受け入れ、中学最後の夏を水泳に注いでみることにしたのです。

特設の水泳部に入部した私は、とりあえず地区大会に向け練習に励みました。
大会といっても、岩手の田舎町で行われるもので、県大会などがあるような規模のものではありませんでしたが(笑)

そこで指導に当たって下さったのがS先生という、とても気さくで優しい先生でした。
私にとっては普段の授業や学校生活で関わることのない先生でしたが、私を含め、水泳部員はみんなS先生を慕っていました。

そして地区大会当日。
リレーの平泳ぎに参加した私でしたが、ほとんど思い出作りのつもりの大会出場だったため、即席の泳ぎに特に自身があるわけでもありませんでした。

ですが、レースが始まり泳ぎ出すと、私の横には誰もいません。なんと1位で泳いでいる自分に驚きました。
ただ、そこで調子に乗るのが私のダメなところ。次の泳者もいるというのに、うぬぼれた私は泳ぎを緩めてしまい、最終的な順位は4位という体たらくでした。

ですが、こんな結果になってもS先生は、

「よく頑張った!4位でも先生は誇らしいよ!」

と、褒めてくださり、S先生の言葉のおかげもあって、とても良い夏の思い出を作ることができ、私もようやく受験勉強に専念することが出来たのです。

そして季節は流れ、卒業式当日のことです。

式の前に職員室に用があり廊下を歩いていると、廊下の向こうからS先生がこちら向かって歩いて来るのが見えました。

「おはようございます!」

そう私が挨拶すると、

「おはよう!卒業おめでとう!」

と、S先生も笑顔で返してくれました。

お世話になったS先生に最後に挨拶できて良かったな、と、心からそう思いました。

無事に卒業式が終わると、次に大きな会場に移動して卒業を祝う会といったものが行われたのですが、その帰り道でのこと。私は母から信じられないような話を聞いてしまったのです。

昨夜、S先生が亡くなった、と。

昨日の夜、車を運転していたS先生は、エンジントラブルのせいでトンネル内で車が止まってしまい、そこにトラックが突っ込んできたらしいのです。
S先生はすぐに病院に運ばれましたが、間もなく死亡が確認されたとのことでした。

突然聞かされた訃報に驚き、私は呆然として、しばらく何も考えられなくなりました。
ただ、少しして冷静になってくると、あれ?と思ったのです。

「…今朝、S先生に挨拶したよな?」

S先生が亡くなったのは昨夜のこと。
だとしたら、今日の卒業式に出席できるはずがないのです。

私は慌てて直ぐに友人数人に電話しました。

「…今日、S先生、いたよね?」

そう聞くと、友人の何人かは、

「いたいた!おれ、挨拶したもん!」

と、私と同じことを言っていました。

友人からの複数の証言を得て、私も今朝の出来事に確信を持ちました。

あれは、S先生の、幽霊だったのだと。

ただ、正直あまり怖いという感情は湧かなかったんですよね。

もしかしたら、S先生はご自分が亡くなったことに気が付かず、普通に私たちの卒業を祝うために来てくれたんじゃないか。
そう思ったら、何も怖いことなんかないどころか、そのS先生の当たり前のような優しさに、なんだか涙が溢れてきました。

これが私が体験した不思議な話です。
夏の季節になると、今でもS先生を思い出します。

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