体験場所:北海道岩見沢市
私の母方の実家は農家で、広い田んぼを有していました。
広いといっても田舎の田園地帯ですから近隣の家はどこもそうで、その家が特別広大な土地を持っているということでもなかったと思います。
田畑に囲まれた中に古い家が建っており、隣の家はもっと遠くに小さく見えるような場所です。
いわゆる典型的な田舎の田園風景を想像していただければ概ねその通りかと思います。
幼少期の頃、私は親の仕事の都合で頻繁にその母方の実家に泊まりに行っていました。
家自体は同じ市内だったので、車で30分ほどの距離です。
そこに住んでいたのは祖父母と従姉妹の家族、そして当時存命だった曾祖母でした。
田舎に住んだ経験のある方なら分かると思いますが、夜はうるさいくらいに大量の蛙が鳴き続けています。
これが田んぼに囲まれた家となると尋常ではない音量で、慣れていないとうるさくて眠れない、という話すら聞くほどです。
私は幼少期からの体験で慣れていたため、もはやほとんど気にならないくらい当然のものとなっていまいした。
親が見ているテレビを見るでもなく聞くでもなく、しかしうるさい程ではないのでウトウトしちゃう、といった経験はあると思いますが、それと同じで、蛙の声が鳴っていても気になって眠れないということはないくらい、田舎の人にとっては日常の音なのです。
よく祖父母の家では曾祖母に可愛がってもらっており、大人が農作業でいない間は従姉妹共々遊んでもらっていました。
夜もよく同じ部屋で眠り、蛙の声に包まれながら色んなお話を聞かせてもらったものです。
そんな曾祖母が亡くなってしばらくの後、例に漏れずまた親の都合で祖父母の家に泊まりに行った時のことです。
曾祖母が亡くなってからは、家の周りでボール遊びをしたり、野良猫を追いかけて走り回ったり、そういった子供らしい遊びが増えていました。
そんなこともあり、以前にも増して遊び疲れ、早めに眠くなったのかもしれません。その日は晩ご飯を食べてすぐに眠ってしまいました。
早く眠ってしまったせいで、目を覚ました時はまだ真夜中でした。
起きると従姉妹も大人達もみんな寝ている様子でした。
うわあ、まだ夜中だ、みんな寝ちゃってる…とりあえずトイレにいこう、と、誰かが掛けてくれたタオルケットを丸めて横に置き、暗い廊下に出ました。
トイレまでの道中、なんとなく不気味な違和感を感じていました。
真っ暗な廊下のせいだと思いましたが、それ以上に何か違う。
それに気が付いた時、私は思わず足を止めました。
季節は初夏の夜。田んぼに囲まれたこの家で、蛙の声が一切聞こえないのです。
今まで当たり前のように聞こえていたはずのものがなくなると、それはそれで不気味に感じるものです。
先程の例えとは逆で、点けながらウトウトしてしまったテレビが、目を覚ました時には消えていたような感覚。
私は急ぎ用を足して布団に潜り、そのまま眠りました。
あの時、蛙の声が消えた理由は未だに分かりません。
翌朝、誰に聞いても私にタオルケットをかけた覚えはないとのことでした。
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