
体験場所:長崎県 実家の風呂場
これは、私が小学生の時の話です。
私には7つ歳の離れたお姉ちゃんがいます。
当時、私は小学校2年生で、お風呂に入る時は必ずお母さんかお姉ちゃんと一緒でした。
もちろんお姉ちゃんは1人でお風呂に入る時もあるのですが、いつからか、お姉ちゃんは1人でお風呂に入ると「男の人の低い声が聞こえる」と言うようになりました。時には「女の人の呻き声がする」とも言っていました。
それがどんな声なのか、文字で表すのは難しいのですが、「あ゛ぁぁぁぁぁぁ」という男性の低い声なのだそうです。でも、その声を聞いたというのは、家族の中でお姉ちゃんだけでした。
そんな話を聞いて私はといえば、怖いなとは思いましたが、実際には一度もその“声”を聞いたことがなかったので、特に気にせずにお風呂に入っていました。正直、私も、お父さんもお母さんも、きっとお姉ちゃんの気のせいだろうとしか思っていなかったんです。
当時、お姉ちゃんは中学生でしたが、「学校で怖い話が流行っているのかな?」と母が言っていたことを覚えています。なによりお姉ちゃん以外に誰もその声を聞いていないため、信じようにも信じられなかったのです。
それからしばらくして、お姉ちゃんから“声”の話は聞かなくなりました。家族もその件については徐々に忘れていき、それから数か月後には私も1人でお風呂に入るようになっていて、“お風呂場の声”のことなんかすっかり忘れ、平和な日々を過ごしていました。
しかし、それからまた数か月後のこと。突然、今度はお母さんが「お風呂で男の人の低い声が聞こえる」と言い出したのです。
大抵のことではビビることのない肝っ玉お母さんが、あの時はとても怖がっていたことを今でも覚えています。
さすがに家族の中に“声”を聞いた人が2人になって、私も心底怖くなりました。
ただ、当時の私には、なぜか1人でお風呂に入りたいという、欲求というか、幼い年の子だけが持つ「お風呂は1人で入っています!」という謎のプライドみたいなものが芽生えていて、その日も私は1人でお風呂に入ったのです。
緊張しながらお風呂場に行き、まずは声がしないか耳を澄ませました。しばらくの間耳を澄ませていましたが、特に声はしなかったので、急いで服を脱いでお風呂に入りました。
シャンプーをして、洗い流して、、、リンスをして、洗い流して…いる最中、ついにその時がきました。
リンスを洗い流すシャワー音の奥で「あ゛ぁぁぁぁぁ」という苦しそうな男性の声が聞こえるのです。
シャワーを止めてみると、声はさらに鮮明になりました。もがき苦しむような男性の声でした。全身に鳥肌が立ちました。私は恐怖でしばらく声も出ず、身動きすることも出来ませんでした。
しばらく硬直していると、男性の声が途切れ途切れになってきました。すると男性の声から、何か軋むような音に変わってきたのです。
そのままじっとしていると、だんだん音のする方向が分かってきました。私は怯えながらも、音のする方に耳を近付けていくと、なんとシャンプーボトルから音が鳴っているようなのです。
目を凝らしてみると、シャンプーボトルの蓋が、ものすごく少しずつ回っているのが分かります。
私はシャンプーの蓋を2回きゅっきゅっと回して締めました。すると、音が止んだのです。
詳しい原因は分かりませんが、声の正体は、シャンプーボトルの蓋が完全に閉まっておらず、少しずつ回っている音だったのです。
私は心から安堵し、家族にもそのことを伝えました。家族みんなでシャンプーに怯えていたのかと大爆笑しました。
ただ、ちょっと変なのですが、その後、男性の声を再現すべく、シャンプーボトルの蓋を緩めたり締めたりして、以前の状態に戻してみようとしたのですが、結局、男性の声を聞くことは二度とありませんでした。
“声”の素は分かったものの、どのような条件の時にあの気味の悪い声が生じるのかは謎のままで、それ以降、この件は我が家の七不思議になりました。
もしかしたら、シャンプーの中で奇声を発していた何かは、蓋を締められて窒息してしまったのかも?
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