
体験場所:東京都○○区の古い雑居ビル
これ、俺が本当に体験した話なんだけど、信じるか信じないかは任せる。
俺は今、仕事の関係で○○区の○○橋や○○堀あたりをよくうろついてるんだけど、数年前にその界隈で、かなり不可解な「部屋」に当たったことがあるんだ。
当時、俺は都内の不動産管理会社に勤めていて、主に築古のビルやマンションの現状復旧の立ち会いなんかをやってた。その日は○○堀にある、見た目はなんてことない5階建ての雑居ビルへ内見の準備に向かった。4階の1フロアを借りていた小さなデザイン事務所が夜逃げ同然で退去したとかで、荷物の残置確認をしに行ったんだ。
現場に着くと、昼間なのに廊下がやけに薄暗い。
ビルの構造上、窓が少ないのは分かるが、空気が妙に重いというか、肌にまとわりつくような湿気を感じた。
鍵を開けて中に入ると、事務所内にはデスクや椅子がそのまま残されていた。
ただ、少し変だったのが、「隙間」という隙間にガムテープがこれでもかってくらい貼り付けられてたんだ。
窓のサッシ、ドアの縁、果ては床のタイルの継ぎ目にまで、茶色の布テープがびっしり。「防音でもしてたのか?」なんて思いながら、奥の社長室兼休憩室みたいな個室に入った瞬間、喉の奥がヒュッとなった。
その部屋の壁一面に、数えきれないほどの「目」が描かれてた……とか、そんなベタなやつじゃない。
もっと地味で、生理的にくる光景。
部屋の隅、壁と天井が交差する角のところに、大量の「名刺」が差し込まれてたんだ。
誰のかも分からない、色褪せた名刺が、壁のわずかな隙間に何百枚と。まるで何かの進入を防ごうとしてるみたいに。
その時、背後で「……あ」って声が聞こえた。
心臓が止まるかと思った。
振り返ると、管理会社の先輩が立ってた。
「お前、そこ、あんまり見ないほうがいいぞ。ここ、前の住人もその前も、みんな『隙間が怖い』って言って出ていくんだよ」
先輩が言うには、この部屋にいると、最初は気のせいくらいの違和感から始まるらしい。
「視界の端で、壁の隙間から何かが覗いている気がする」
「コンセントの穴から、細い指のようなものが見えた」
そうやって、みんな少しずつ追い詰められて、テープや紙で隙間を埋め始める。最終的には、自分の耳の穴や口まで塞ごうとした奴もいたって話だ。
俺は怖くなって、その日の作業を早々に切り上げた。
でも、本当に変なのは、その日の夜からだった。
○○橋にある自宅マンション(築浅で隙間なんてないはずの部屋だ)に帰って寝てると、ふと目が覚めたんだ。
時刻は午前2時過ぎ。
ふと天井の隅を見ると、昼間見たあの事務所と同じように、壁紙の継ぎ目が「パカッ」と口を開けているように見えた。
気のせいだと思って目を閉じようとしたんだけど、そこから「カサッ……カササッ……」と音がする。
名刺や紙を、隙間にねじ込むような、乾いた音。
慌てて電気をつけたが、何もない。壁紙も綺麗なままだ。
ただ、翌朝起きたら、俺の枕元に見たこともない古い書体の名刺が1枚だけ落ちていた。
そこには名前も会社名もなくて、ただ一行、
『次は、あなたが埋めてください』
とだけ書いてあった。
正直、今でもあの名刺がどこから来たのか分からない。
あの○○堀のビルはその後、結局取り壊されて、今は新しいマンションが建っている。
たまにその前を通ると、新築のはずの建物の窓枠に、なぜか不自然な茶色のテープの跡が見えることがあるんだ。

他にも「東京都の怖い話」複数ございます。
→ 東京都で体験した怖い話(実話)

コメント