体験場所:北海道 K市とE市の市境辺り
あれは、当時の彼氏と同棲を始めた頃の話です。
彼は工場の技術職でした。
同棲して住み始めた家は彼の職場からはかなり遠く、いつも1時間以上かけて車通勤をしていました。
そんな折に、急に彼の長期出張が決まってしまったのです。
彼の出張中、私は同棲を始めたばかりの広い家で一人ぼっちなのが寂しくて、度々職場の友人の家に遊びに行くようになりました。
その日も友人の家に遊びに行ったのですが、二人とも翌日がお休みだったこともあり、ついつい長居してしまい、気が付いた頃には深夜になっていました。
いつもなら泊まっていくパターンなのですが、翌日に家の防火設備点検があったため、深夜にも関わらず、仕方なくその日は帰ることにしたのです。
帰り支度をして車に乗り込んだ時には、既に夜中の1時半を回っていたと思います。
欠伸をかみ殺し慎重に夜の道を運転していました。
ですが、いつも右折する交差点の目印にしていたパチンコ屋さんが、既に店終いで電飾が消えてしまっていたので、うっかり私はその交差点を直進してしまったのです。
Uターンするのも面倒なので、次の曲がり角を右折していつもの道に戻ろうと考えました。
右折した道は少し大きめの農道のような道でした。
(どこかでいつもの道に出るはず…)
と高を括り、その知らない農道を走っていたのですが、思いのほか道はくねくねと蛇行していて(失敗したかな~)と思う頃には、引き返すのが躊躇われるくらい来てしまっていました。
(必ずどこかで知っている道に出るはずだ…)
そう思って走り続けるのですが、一向に見覚えのある道に出ません。
しかも、何故かカーナビが全く反応しない状態になっています。
引っ越したばかりの土地で道に詳しくなかったこともあり(田舎だし、この辺りは電波が弱いのだろう…)と、無理に自分を納得させるのですが、やはり少しずつ不安になってきます。
(やっぱり引き返した方がいいかな~)
と思案しながら怖々車を走らせていると、農道のT字路にぶつかりました。
T字路の突き当りには小さな社に入ったお地蔵様が鎮座しています。
もし私の方向感覚が合っていれば、いつもの大きな道に出るには右方向のはず。
私は迷わずにハンドルを右に切りました。
そのまま少し行くと、間もなく大きな神社が見えてきました。
真っ赤な朱色の鳥居と沢山の提灯が掛かっている立派な神社です。
私は一度スマートフォンの地図機能も確認してみようと、その神社の前で車を停めました。
停車して改めてその神社を見ると、秋祭りでもあるのか、境内を囲むようにぶら下がっている提灯には煌々と明りが灯っています。
(…それにしてもこんな立派な神社があっただろうか?)
そう思った時、不意に違和感に襲われました。
気が付いたんです。
今、時間は深夜2:30です。
(祭り期間だとしても、こんな深夜に提灯の火を灯しておくだろうか…?)
それに神社の鳥居が余りにも綺麗すぎるんです。
こないだ旅行した伏見稲荷だって朱色の鳥居はところどころ錆や傷があったのに、その神社の鳥居は不自然なくらい傷みがなく、鮮やかな朱色が嘘臭い程に綺麗で真新しいのです。
(ああ、ここで車を降りたらきっと戻れない…)
なぜかは分かりませんが、ただ漠然と私はそう思いました。
なぜ突然そんなことが思い浮かんだのか分かりません。
ただ、「ここは人間のいるところではない。」そう思った瞬間、全身に鳥肌が立ったんです。
高まる鼓動を抑えながら、私は静かに車のギアをバックに入れ、そこにいる何かに気が付かれないように、ゆっくりとアクセルを踏んで来た道を戻り始めました。
無心に車を走らせ、空が白み始めた頃にふと気が付くと、私は家の近所の交差点を走っていました。
「ああ、戻ってこれたんだ…」
あの時の安堵感は今でも忘れられません。
その後、先日の友人にこの話をしてみると、その神社を探してみようという話になりました。
ですが、友人に話す前から私はその近隣の神社を調べていたのですが、あの日見た神社はどこにもありませんでした。
日中に、先日と同じルートで例の農道を走ってもみたのですが、お地蔵様のあるT字路までは行けるのですが、その先にあった神社はどこにも見つからず、そのまま進んでも近所の交差点に出るだけなのです。
結局、あの時の神社は見つかりませんでした。
その後、私が迷い込んだ辺りの地域で、失踪した女性が遺体で見つかる事件が起きました。
謎の多い事件でしたが、女性の遺体は散々警察が探したはずの公園から、突如、落ち葉に埋もれた形で発見されたそうです。
もしかしたらその女性も、私と同じ世界に迷い込み、そのままあの神社に侵入してしまったのでは…
もし、あの神社の前で私も車を降りていたら、公園で見つかった遺体は私のものだったのかもしれない…
そんな風に思ったのです。
祖母に話すと「狐の嫁入りだね。お前が連れていかれなくて良かった。」と言っていました。
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