
体験場所:福島県 某所
私が大学生の頃、福島県へ旅行に行った時のお話です。
高校生の頃から仲がいい友人AとBの二人とは、毎年一度はどこか温泉旅行へ出かけるのが恒例となっており、その年は福島県を旅行先に選んでいました。
しかし、10月という季節が災いしてか、旅行当日に台風が接近。それでも行くのかと家族に心配され、宿泊予定の旅館からはキャンセル確認の電話もありましたが、なぜだか私たち三人は揃って予定変更のつもりは全くなく、あまり危機感も感じないまま当日を迎えました。
私「よーし、それじゃ出発出発ー!」
A「台風ぜんぜん大丈夫そうちゃう?」
B「いけるいける、これやったら普通に観光できるで」
そんな会話をしながら地元大阪を後にして、私たちは当初の予定通りAの車でのんびり福島まで向かうことにしました。
結局、心配されていた台風の影響も特になく、気付くと二泊三日の福島旅行初日を無事に終え、まだ17時頃と割と早い時間でしたが、私たちは早めに観光を切り上げて旅館に向かうことにしました。
A「ナビ入れて、ナビ」
私「おっけー……あれ?なんかこの先、通行止めなってるっぽい。迂回して山道登らなあかんって」
A「まじ?だる」
免許を持っているのはAだけでしたので、Aが運転、私が助手席、後部座席にBが一人で乗っていました。
そのまま車のカーナビ通り山道の迂回路を進んでいくと、すれ違う車も民家もどんどん減っていき、気が付くと獣道のような細い未舗装路を走っていました。
B「え、なんかこわ」
A「対向車きたらどうするん」
私「……」
この辺から私はなんとなく嫌な予感がしていました。予感というか、なんだか四方八方から視線を感じるような。
いつの間にか日も暮れて、空は真っ暗。周囲を木々に囲まれた獣道はハイビームでもほとんど前が見えないくらいの暗闇で、だんだんと他の二人の言葉数も少なくなっていくのが分かりました。
A「引き返した方がいいんちゃう?」
私「いや、道狭すぎて戻られへんやろ。どっか広い場所に出ないと」
B「こわいこわいこわい」
ホラー抵抗の低いAとBは既に半ばパニック状態で、ホラー愛好の私だけがまだなんとか平静を保っていられる状況でした。
私「ナビ通りなら、この先にちょっと開けた場所があるからそこに行って引き返そ~」
私だけでも努めて明るく振舞い、二人を励ますようにしながらもうしばらく進むと、ようやく先ほど言っていた開けた場所に出ました。
そこで唐突に目に入ったのが「通行禁止」の看板と――
私「え、――鳥居?」
目の前に現れたのは随分と古びた神社でした。
名前は忘れてしまいましたが、確か「慶」の文字が入っていたと思います。
突然の神社の出現にAの恐怖はマックスに達したようで、運転もできないくらい取り乱してしまいました。しかも困ったことにスマホの電波も圏外。
A以外は免許を持っていないので、そのままUターンして下山することもできず……。
私「とりあえず、神社に誰かおるかもしれんし、道聞いてくるわ」
A「嘘やろ度胸どうなってるん??絶対降りたら死ぬって」
B「こわいまじむりむり」
私「でもナビおかしなってるみたいやし、スマホも使われへんし、人に聞くしかないやん。大丈夫、死ぬ時は一緒やで」
A「なんも安心できんが??」
そんなやり取りを後に車を降りると、私はスマホの懐中電灯を照らして真っ暗な神社に入りました。
律儀に鳥居の前で一礼し、おそるおそる人を探します。
(幽霊よりも野生動物の方が怖いんよな〜。熊とかおらんよな?)
元々幽霊などは信じておらず、さっき感じた視線も野生動物のものだろうと思っていた私は、ある意味でびくびくしながら境内を回っていました。
社務所どこやろ、と思ってウロウロと彷徨っていたその時。
――カタン。
と、奥の方から物音が聞こえました。
明らかに人工物がぶつかる音で、人だ!と思った私は「すみませーん!」と大声を上げて音のする方へと向かいました。
到着したのは、なんと呼ぶのか知りませんが、神社でよく見る日本的な建物。
建物の襖越しに灯りが点いているのが分かったので、「すみませーん!」と、木の部分を叩いてノックし声を掛けました。
……が、無言。返事がありません。
聞こえてないんか?と思い、先程より大きな声でもう一度叫びましたが、やはり誰も答えてくれません。
このままでは拉致があかないと思い、中に入ることを決意した私は、「あー、えーと、お邪魔します」と、一応誰かに向けて断りを入れつつ、襖を開けた瞬間……絶句しました。
そこにあったのは、人形、人形、人形。
日本人形に海外の洋風な人形やら、ポップなぬいぐるみなんかもありました。
しかも、そのどれもがこちら側を向くように座らされていたのです。
私「やっっば!?」
幽霊を信じる信じないとか抜きに、さすがにこれには肝が冷えた私は「失礼しました!」と大声で謝罪してから襖を閉めて全力疾走。
そのまま車に走りこんで来る私を見て、AとBは「なになに!?なに!?なに!?」と焦っている様子。
私「人はおらんかった。人は。とりあえず下りようそうしよう」
A「待って怖いって。人『は』ってなに!?」
私「聞かん方がええで。とりあえず電波繋がるところまで下りたらあとはスマホのナビで旅館向かおう」
A「怖すぎるってー!!」
B「こわいこわいこわい」
ほぼ無理やりAに車を発車させて勢いよく下山。
山道を下りる間も、私は神社で見た先ほどの光景が忘れられず「やべー!!」と、もはや笑うしかありませんでした。後々Aに聞いた話では、そんな私が一番怖かったそうな。
途中やはり民家や対向車もありませんでしたが、綺麗に舗装された道路に出た瞬間、スマホの電波が回復。それと同時にいままで一切降っていなかった雨が土砂降ってきました。
それは前が見えないくらいの強烈な雨で、このまま運転を続けるのは危険なため、道のど真ん中で往生することに。
その間に3人ともスマホの地図アプリを開いて確認すると、
A「むりむり、マップ!マップ!……って、やっぱりさっきの山道指してるやん!」
B「私のスマホも山道に戻れってでてるー!!!」
私「まじ?私のいけてんで。このまま下って国道出ろってさ」
A「なんで!?わけ分からんけど雨も小降りなってきたし、もう〇〇(私)のスマホナビを頼りに行くしかない!!」
と、半ばやけくそにAが車の運転を続行すると、しばらくしてなんとか国道に出た私たち。そのまま私のスマホナビに従って、ようやく旅館に辿り着くことが出来ました。
旅館の方に事の経緯を話してチェックインの時間が大幅に遅れてしまったことを謝ると、「あー、あの山は危ないから滅多なことでは行かない方がいいよ」と言われました。詳しくは教えてもらえませんでしたが、度々あの山では事故が起こるそうです。
その日は全員震えながら眠りました。
が、一晩寝たからか、翌日には全員ケロッとして福島観光二日目を楽しく過ごし、そしてまた、いざ旅館に帰ろうとなった時。
私「……あれ?通行止めなくなってる」
A「むりむりむり」
B「こわいってーー!」
と、車のカーナビが昨日と全く違う、山道など通らないルートをナビしていて、震えました。
後日、「そういえばあの山から下りて来た時、なぜ〇〇(私)のスマホだけが正常に動作したんだろうね」という話になった時。
A「幽霊も怖かったんやろ。あんためちゃくちゃ自我強いし。気も強いし。幽霊も元人間やからな」
なんて言われたことも含めて、不思議な体験でした。
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