体験場所:岡山県O市の某マンション
これは私が岡山県の専門学校に通っていた時の話です。
私はこの時、地元から離れて初めての県外での生活を味わっていました。
どうしても行きたい専門学校が岡山県にあり、専門学校に通う2年間の間、親に許しをもらい一人暮らしを始めたのです。
岡山での生活は意外にも言葉の壁があり、最初はしゃべり方を笑われたり、聞き返されたりとストレスもありました。ですがそんな中、なんとか友人を見つけることができ、岡山での生活にだんだんと慣れてきた頃のことでした。
その友人(A子)がうちに来ることは何度かありましたが、私がA子の家に行ったことはありませんでした。
A子が一人暮らしするマンションが学校から少し離れていたということもあるのですが、実際彼女はそこから学校に通っているわけだし、全く行けない距離ではありません。
ある日、私はどうしてもA子の家に遊びに行きたくなってお願いしたのです。
すぐにOKしてくれるかと思ったのですが、A子はなかなかいい返事をくれませんでした。
不思議に思って理由を聞いてみたら、その家にちょっと問題があるらしかったのです。
A子が言うには『ついてくる』んだそうです。
それだけ聞いても私は全くピンとこず、思わず「何が?」と聞き返しました。
しかし、A子は詳しいことは教えてくれません。
ずっと「何かが…」と言っていて、結局よく分からないままでした。
渋る友人をどうにか説得して、その日、私は遂にA子の家に泊まりにいくことになったんです。
A子は「本当に来るの?」と、かなり嫌そうでしたが…
丁度夏休みの連休だったこともあり、その日は一泊分の着替えを用意して友人宅へ向かいました。
初めて見たA子の住むマンションはかなり年季が入ったタイプで、外観からして寂れていて不気味な感じが漂っていました。
A子の部屋は2階だったのですが、階段もかなり老朽化しており、上るのが怖いくらいでした。
ただ、部屋に入れてもらうと、内装は新しくなっており比較的キレイでした。
ほっと一安心して、二人でいつものように部屋でおしゃべりしていたんですよね。
あっという間に時間は過ぎていき、その日は深夜の2時頃まで深い話をして、それから眠りにつきました。
友人の部屋に初めて来れた満足感からか、夜はぐっすりと眠ることができました。
翌日になり、私はバイトの予定があったので、着替えて早々に部屋を出ることにしました。
すると、まだパジャマ姿のA子が、
「ついてくるけど、大丈夫?」
と、なんだか急に気味の悪いことを言い出したのです。
「ついてくるって?」
と、私は聞き返しました。
そういえば、泊りに来る前にも言っていたなと思い返しながら、A子の返答を待っていました。
しかし、A子は質問には答えてくれず、
「ついてきても振り向かないでね」
とだけ言います。
うつむき気味に無表情な目で私を見るA子の雰囲気は、普段の彼女とはガラリと違って見え、私は妙に怖くなりました。
いつもとは違う友人から逃げるように、私は泊まり道具一式を持って部屋を出ました。
ピシピシと鳴る階段の音は来た時よりも耳に付き、ちらっと振り返って見たマンションは昨日よりも古びて暗く不気味で、私はそこから逃げるように帰路についたのです。
マンションから少し離れ、私はようやく人心地ついてゆっくりと歩き始めました。
突き抜けるような青空の下、温かい日の光に照らされ歩いていると、さっきまで感じていた気味の悪さが何時の間にか嘘のように思えてきたのですが…
しばらく行くと、後ろからコツコツと足音がしてくることに気が付きました。
最初こそその足音は、人の気配を感じさせ私を安心させたのですが、それが徐々に私の中で不安へと変わっていきました。
なぜならその足音からは、極端な程ゆっくりと歩いていた私を、抜く気配が一向に感じられないのです。
振り向こうにも振り向けません。
なぜならA子が言っていた「何かがついてくる」という言葉を思い出したから。
同時にA子に言われた「振り向かないでね」という言葉が脳裏を駆け巡り、後ろを確認したいという思いをぐっと無理やり前に向け、私は歩く速度をあげました。
すると後ろの足音も早くなったんです。
背中にゾクゾクとした寒気を感じながら冷や汗も止まらず、私は気付くと小走りになっていました。
それでも後ろから『ついてくる何か』の気配は消えることなく、むしろ今にも追いつかれそうな感覚すらあります。
そこで私は我慢できなくなって、振り返ったんです。
『何』が『ついてくる』のか、私は確かめずにいられなくて、おそらく恐怖の形相をしながら振り返りました。
「ぎゃーーーー」
その瞬間私は叫んでいました。
だって振り返ったらすぐ後ろにそれがいたからです。
何がいたか?
それは分かりません。
だって私はその時、A子の部屋で目が覚めたのですから。
真っ青な顔で急に叫んで跳び起きた私を見て、先に起きていたA子は心底驚いた顔でした。
そして神妙な顔で私に聞いてきました。
「え?もしかして、あの夢見た?」
どうやらA子はこのマンションを借りてから、何度も私が見た夢と同じものを見ていたそうです。
何かがついてくる夢。
あまりに怖くて、帰り道は駅までA子に送ってもらいました。
だって再び同じことが起こったらと思うと、恐ろしくておかしくなりそうだったからです。
後日、A子と共にお祓いをしてもらいました。
A子はそれからしばらくしてあのマンションから引っ越し、それ以後『ついてくる夢』を見ることはなくなったそうです。
未だにあれが何だったのかは分かりません。
分からないからこそ、『ついてきた何か』を思い出す度、今でも鳥肌が立ちます。
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