【怖い話】心霊実話|短編「直角おじさん」新潟県の恐怖怪談

投稿者:つばめ さん(23歳/女性/パートアルバイト/新潟県在住)
体験場所:新潟県N市の某ホテル
【怖い話】心霊実話|短編「直角おじさん」新潟県の恐怖怪談

これは以前に勤めていた新潟県N市のホテルで体験した話です。

当時、私はそのホテルで調理スタッフとして働いていました。

市内では歴史あるホテルで、お客様も沢山いらっしゃいました。

私が勤め始めて1年ほど経った頃です。

それまでも厨房はギリギリの人数で回していたのですが、遂に時間内に業務をこなすことが難しくなり、その頃から残業で夜遅くなることが増えていきました。

残業は1人の場合が多く、その日も他のスタッフが皆帰った後、私は一人残って仕事をしていました。

夏の蒸し暑い夜でしたが、空調設備が古く、エアコンの効かない厨房で私は一人黙々と作業をしていました。

すると突然、『ガシャンガシャン』と、金属同士が打ち付け合うような音が室内に響きました。

突然の音に私はビクリと身体を強張らせたまま、音のした方をゆっくり振り向くと、壁に掛かった3、4本のレードル(しずく型のお玉)だけが不自然に揺れていました。

地震があったわけでも、もちろん空調の効かない厨房に風が吹いているわけもありません。

シンッと静まり返った室内で、そのレードルだけが一斉に互いを打ち付け合うように突然揺れて、またゆっくりと静止したんです。

これまでも多少不思議に思う体験はありましたが、これほど怖いと思ったのは初めてでした。

私は壁にぶら下がったレードルを直視したまま硬直し、なぜか「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい 」とひたすら呟きながら、厨房の台と台の隙間に身を隠すように入り込みました。

しばらくして、警備のおじいさんが見回りに来てくれたところで、私は隙間から飛び出して逃げるようにその日はそのまま帰ったんです。

後日、その事を友人に話すと、

「残業続きで疲れてるんだよ~」

と言われ、私も、そうかも、勘違いだったのかも、あんなことあるわけがないと思い直そうとした矢先、今度はランチタイムの明るい時間帯にハッキリと見てしまったんです。

厨房とホールスペースの間には、ホールスタッフが利用するバックヤードがあります。

そこで仲の良かったホールスタッフの先輩と、会話をしながらオーダーを捌いていた時でした。

フッと顔を上げ、何気なく目に入ったホール側の両開きドアは、いつも通り右側のドアだけ解放され、ホールの様子が伺えます。

その開かれたスペースに、左の閉じられたドア側から、男性の頭(見た目おじさん、耳が大きい、短髪黒髪)がドアと90度直角の角度でニョキッと覗いていたんです。

見た瞬間の気持ち悪さが凄すぎて、一瞬で血の気が引いて直ぐに目を逸らし、もう一度ゆっくりそちらを見た時には、男性の頭は消えていました。

「なに…今の…」

1年働いている職場でしたが、厨房でもホールでもあんな顔のおじさんを見たことがありませんし、お客様が覗き込んでくるはずもありません。

ましてやドアから90度の角度で頭を突き出すなんて、普通の人間がする姿勢とは思えず、再び私はそのドアスペースを直視たまま固まってしまったんです。

以前、その職場で働いていた先輩女性が言っていたことを思い出しました。

「ホテルみたいに宴会とかで人が多く集まるところには特に霊が集まりやすくてね、私もこのホテル内で何回も見たことがあるんだよ。」

私が見たのも、やはりそういう類のものだったのでしょうか…

しかし、その後は特に変わったことが起こることもなく、次第に私もそのことを忘れ始めていました。

しばらくして、その日、私は友人達と飲みに行く約束をしていました。

早番の仕事を終わらせ一度アパートに戻ってから、約束の時間に店に向かって歩いていました。

飲み屋街に向かう途中、線路を越えるための跨線橋を渡るのですが、階段を上がっていると、前を同じ方向に向かう男性が歩いていることに気が付きました。

急いでいたので、足早にその男性の横を追い抜いた瞬間でした。

いきなりふくらはぎの辺りを思い切り蹴られ、

「女なんかみんなシネばいんだよ!」

と怒鳴られたんです。

男性の顔は凄い怒っていて、余りにも突然のこと過ぎて、私は思わず謝りながら逃げたのですが、その時ふと思い出したんです。

今の男性の顔、あのバックヤードを覗いていたおじさんの顔だったと…

その後、私は余りのショックに今の出来事を警察に届けることも出来ないまま、友人達との待ち合わせの店に行きましたが、お酒を飲むこともないまま気持ち悪くなり、そのまま友人達に家まで送ってもらいました。

そんなことがあって、しばらく経った頃でした。
私は再び驚きの光景を目の当たりにしたんです。

近所のコンビニに立ち寄った時でした。

買い物かごに品物を入れレジに行くと、あのおじさんが店員をしていたんです。

目を見開いて呆然と立ち竦む私を他所に、おじさんは普通にレジを打ち「○○円になります」と言いました。

私も普通に料金を払い店を出ました。

近所なので、たまに利用しているコンビニでした。

あのおじさんはずっとここで働いていたのだろうか?

これまでも何度か会ったことがあったのだろうか?

だとしたらホテルのバックヤードに現われたのは、このおじさんの生霊?

ですが、おじさんのレジ対応を見る限り、私に対する特別な感情は感じられませんでした。

それならどうして…ゴチャゴチャと色々な事が頭をよぎりました。

その後、私は仕事を辞めアパートを引っ込しました。

未だにホテルで見たあの光景が、コンビニのおじさんの生霊だったのかは謎のままです。

でも、だとしたら、身近にいた人間の感情がこもっているだけに、幽霊よりよっぽど生霊の方が不気味だと感じる体験でした。

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