体験場所:岐阜県K郡 勤務先の屋上
これは、私が働く岐阜県K郡にある会社で体験した出来事です。
ちょうどコロナ第一波が明けた2020年の初夏の頃だったと思います。
主に自動車関係の部品製造を行っている私の会社では、コロナ渦で製造が止まっていた工場ラインが再び一斉に稼働し、連日のように全従業員が残業・休日出勤という日々を送っていました。
その日は、たまたま仕事が一段落ついた日で、ほとんどの従業員が残業することなく帰宅出来ていましたが、私はまだ持ち場で一人、残務処理に当たっていました。
ひとしきりの作業を終えて、休憩がてら屋上に上がり、喫煙所で煙草に火を点け、ふと空を見上げてみると、とても綺麗なオレンジ色の夕焼けが目に飛び込んできました。
その頃は連日の残業で、帰宅時にはすっかり空も暗くなっている日々を送っていましたので、久し振りに見る綺麗な夕焼け空を私はしばらくボーっと眺めていました。
フーッと、何度目かの煙草の煙を空に向かって吐いた時でした。
その煙の向こうに見える遠くの空に、米粒くらいの影が見え、それがこちらの方に向かって飛んで来るのが分かりました。
(鳥かな…)と思いながらも、何か妙な違和感を感じ、私はしばらくその影を見続けていたのですが、影が次第にこちらに近付き大きくなるに連れ、その違和感の正体に気が付きました。
飛んでくる影からは、全く羽ばたく仕草が見られないのです。
とは言え、滑空している鳥ならば羽を羽ばたかせる必要もないだろうし、(やっぱり鳥だよな…)と思って、一度視線を落とし灰皿で煙草を揉み消し、再び視線を上げた時でした。
私の目の前の空を『見たことのないシルエット』の生き物が悠々と飛びながら横切って行ったのです。
いやむしろ、飛んでいると言うよりは『泳いでいる』と言った表現の方が正しいかもしれません。
下から見上げたその生き物は、頭頂部がハンマーのようなシルエットをしていて、それは正に、海に住むハンマーヘッド・シャークのような魚型のフォルムをしていたのです。
その生き物は羽ばたくこともなく、数回ひれを振るだけで旋回し、悠々と私の目の前の空を行ったり来たりしています。
唖然としました。
何度も見間違いではないか?と、私は瞬きを繰り返しましたが、やはりそれはハンマーヘッド・シャークのような魚形のシルエットで、目の前の空を気持ち良さげに泳いでいます。
美しい夕日を背景に、悠然とした貫禄の泳ぎを見せるそれに、私の目は釘付けとなり、それはかなり長い時間、私の目の前を優雅に泳いでいる様に思いましたが、時間にするともっと短い間だったのかもしれません。
私はどうしても目の前の光景が信じきれず、今度はしばらくの間、思い切り目を瞑って、その後ゆっくりと目を開き焦点を合わせました。
すると、謎の飛行生物は目の前からは消えており、何時の間にそこまで移動したのか、また遠くの空を米粒くらいのサイズで泳いでいました。
それは更に小さくなるまで遠くへ遠くへと泳いでいきましたが、やがて肉眼で見えなくなるまで、私はただただその飛行生物を見つめ続けました。
暫し呆然とした後、ハッと我に返った私は、この奇妙な体験に恐怖どころか感動すら覚えていました。
その興奮冷めやらぬ内に、私は帰宅後すぐに先ほど見たものを家族に話したのですが、やはりと言うべきか、今一つ誰にも信じてもらえません。
その翌日には会社の同僚にも話してみたのですが、案の定、「俺もUFOなら見たことあるよ」等と、早々に冗談を返され、鼻で笑われてしまう始末です。
確かに逆の立場なら、私もそんな反応を示したかもしれません。
しかし、いくら連日の残業や休日出勤で疲れていたとしても、この目で実際にハッキりと認識して見たものを、どうしても見間違いと思うことは出来ず、今もモヤモヤとした日々を過ごしています。
一体あの飛行生物は何だったのでしょう?
あの日以来、謎の飛行生物を見ることはありません。
ただ、あの日を境に、私は空を眺めることが増え、気持ちをリレッシュする時間が持てるようになった気がします。
もしかしたら、あの頃、あまりに忙しく時間に追われ生きていた私に、心のゆとりを思い出させるために、あのハンマーヘッドシャークは現われたのかもしれない。
あの悠々と夕焼け空を泳ぐハンマーヘッドシャークの姿は、時間という概念からは解放された、それは雄大で安寧な光景にも思え、最近ではそんな風に考えるようにもなりましたが・・・
でも本当に、何だったんだろう。
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