体験場所:兵庫県姫路市 姫路城内
姫路城が長期改修(2009年~2015年)される前のお話です。
改修工事が始まると、数年お城が見られなくなってしまうので、その前に一度行ってみたいと思い立ち、私は夜行バスの予約を取り、バイト終わりのその足で姫路に向かいました。
平日の早朝という事もあってか、観光客はまばらで、城内には1フロアにつき1人か2人程度の入城者しかいませんでした。おかげで初めての姫路城をゆっくりと見て回り、静かな空気の中で城内の雰囲気を味わうことが出来ました。
天守閣のお社でお参りをし、出口に向かうための階段を降りていた時です。
ふと上を見上げると、階段を降りる途中の壁に、赤い手形が1つベッタリと付着していました。
(もしかして、誰かのイタズラか?)
世界遺産である重要文化財になんということをするのかと、一瞬嫌な気分にもなりましたが、でも考えてみると、イタズラにしては手形は随分と高い位置に付けられていて、妙な違和感を覚えたのです。
手型の真下まで行くと、手形の位置は、私の足元から3~4m程の高さであることが窺えます。
その高さに手形を付着させるには、梯子などがなければ困難なはずです。
ですが、その足場となる階段の幅や奥行きを考えると、とても梯子など設置できる場所とも思えません。
(なぜあんな位置に手形が?)
不思議に思い、誰かに聞いてみようかと周囲を確認しましたが、スタッフどころか観光客の一人もいません。
気にはなりましたが、仕方なく私はその場を後にしました。
ですが、帰宅してからも私はあの手形のことが頭から離れず、一人であれこれ思案していました。
お城の外は工事の準備が進んでいたから、もしかしたら現場の人が、城内での作業中に偶発的に付けてしまったものではないか?それとも、やはり陰湿なイタズラなのだろうか?
色々と一人で考えを巡らせてみても、答えなど出るはずもありません。
どちらにしてもこの事は、スタッフの方には教えておいた方がいいと思った私は、メールでお城の事務局に手形の件を伝えました。
数日後、事務局から連絡がありました。
『いつ付着した手形であるのか不明』
とのことでした。
(一体あの手形は何・・・?)
どうしても腑に落ちないまま、私は家族にも話してみたのですが、「やめてよ、そんなオカルトみたいな話」と一笑されるだけでした。
ただ、弟だけが話に興味を持ったのか、面白半分で姫路城にまつわる逸話をインターネットで検索し、気になる記事を見つけてきたのです。
それは、私も参拝した天守閣のお社、そこに祀られる地主神、刑部姫(おさかべひめ)に関するとある伝説についてのものでした。
それによると、刑部姫とは『長壁姫』とも表記され、姫路城に隠れ住むと言われる女性の妖怪のことらしいのです。
その昔、当時の姫路城主(池田輝政)の病気平癒のため、祈願に訪れていた阿闍梨(位の高い僧侶)の前に、美しく装った三十歳くらいの女性が現れ、「祈祷を辞めろ」と阿闍梨に退散を命じたそうです。
しかし、阿闍梨も怯むことなく「お前は何者だ!」と立ち塞がったところ、たちまち女は身の丈2丈の鬼神に変化し、阿闍梨を蹴り殺してしまったのだそうです。
これを城主輝政は土地神の祟りと考え、刑部明神を祀るようになったと言われるそうです。
他にも刑部姫にまつわる伝説は数多く残されているそうですが、なぜ弟が特にこのエピソードに関心を示したのかと言うと、それは刑部姫の身の丈について。
鬼神へと変化した刑部姫の身の丈は、2丈。
2丈というと、約6mです。
城の壁に付着していた手形の位置は約3~4mの高さ。
つまり、鬼神に変化した刑部姫が、壁に手を付いている姿を想像するのは容易な事です。
もしかしたら、夜の姫路城内を、今も刑部姫が徘徊しているのかもしれない…
そう考えると、数百年経った今でも姫路城を守ってくれているんだと、怖いというよりは、頼もしくも感じますが…ちょっと突飛な空想かもしれませんね。
でも本当に、私が見つけたあの手形は一体何だったのか…
あれから数年経ちますが、それ以降、私は姫路に立ち寄る機会も無く、あの手形が現在どうなったのかは不明です。
もしかしたら、私以外にも手形の目撃者がいないのか、度々インターネットで探してたりもするのですが、今のところ他の目撃情報も見当たりません。
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