体験場所:神奈川県横浜市
私は実際に証明されているもの、又は自分の目で見たものしか信じません。
怪談は好きですが、その実、幽霊や未確認飛行物体なども信じていません。
ですが、実際に自分の身に起こったことは認めざる負えません。
子供の頃から私には不思議な能力がありました。
近いうちに消えて無くなる物が私の脳内でスポットライトを浴びたように光って見えるのです。
なお言うと、光を浴びたそれを、私は愛しく切なくすら思うのです。
それが見えた直後から翌日までの間に、その物は消えて失くなります。
初めてその能力に気付いたのは小学校低学年の時です。
親戚の人が海外のお土産にくれた少し個性的な縫いぐるみ、それが最初に消失したものでした。
前夜、寝ている私の頭の中で、その縫いぐるみが光り輝いて浮かび上がり、それをとても愛おしい気持ちで見ていました。
翌朝、親に連れられ近くのショッピングセンターに行ったのですが、私はその縫いぐるみをリュックに入れて一緒に持って行きました。
可愛い縫いぐるみを背負っていると思うと嬉しくて、いつも以上にショッピングセンターが楽しく思えました。
買い物の間、何度かリュックを開いては中の縫いぐるみをニンマリと眺めたりしましたが、一度も外に出すことはありませんでした。
帰宅後、リュックを開くと縫いぐるみは消えていました。
親と一緒に同じ道を何度も行ったり来たりしながら探して、ショッピングセンターに問い合わせもしてもらいました。
でも、とうとう縫いぐるみが見つかることはありませんでした。
スポットライトに照らされて輝いている縫いぐるみの姿だけが脳裏に残りました。
それから同じ現象は何度も起こりました。
その中でも特に気味悪く印象に残った話をします。
小学校高学年の時でした。
活発だった私はその日も朝から元気に学校に行き、疲れるまで遊んでから帰宅しました。
疲れ切った私は、その日も夜の8時には就寝したと思います。
いつもと変わらない日常でした。
その日の深夜遅く、私は何故か目が覚めました。
今までそんなことは一度もなく、でも喉の渇きを覚えて水を飲み、テーブルにコップを置きました。
テーブルの上には私が飲んだコップとは別に、父が飲んだだろう乾いたコップが置いてありました。
分厚い角張ったグラスで、今思えばオンザロック用のグラスだったかと思います。
もう一度眠ろうと寝室に向かおうとした時、突然、キーンとガシャとの中間くらい、ガラスとガラスが擦れるより硬い音がしました。
直ぐに振り返ってテーブルを見ると、さっきと変わらずコップが二つ並んで置いてありました。
ただ、私の脳内では、父のコップだけが光って見えました。
乾いているのにキラキラと綺麗に輝くコップ。
深夜の静寂の中、そのコップの放つ煌めきだけが、可憐に闇中を漂っていました。
その夜、私は悪夢にうなされました。
私は夢をよく見る方ですが、ただ、その夢はいつもの夢とは全く違っていました。
甲冑を着た武士が立っていました。
抜き身の刀を持ち、何をするでもなく、打ちひしがれるようにその武士はそこに立っていました。
私はただただそれを見ていました。
そういえば、その前日の日曜日に、私は近所にあるかつて古戦場だったと言われる場所で、小さな赤い石を拾ったことを思い出しました。
甲冑はその色に似ています。
どのくらいの時間そうしていたのか分かりません。夢ですから。
ただ物悲し気な武士と二人きりの空間にいました。
その朝はいつもより早く目が覚めました。
とっさにテーブルのコップを確かめに行きました。
父のコップが真っ二つに割れていました。
砕けたのではなく、文字通り本当に真っ二つでした。
グラスの真ん中を、スッと刀の刃が通り過ぎたように。
光って見えたものがまた失われました。
ぞくりと身体が震えました。
心底気味が悪くなりましたが、あの赤い石だけは元の場所に戻して来ました。
その日の夜、私は高熱を出して寝込みました。
事前に物の消失を知る。
こんな事を私は度々体験するのです。
「その現象は物だけ?」と疑問に思った方もいることでしょう。
人ですか?
自分のこの能力に気付いてからは、出来るだけ人の顔を覚えないようにしています。
その人の顔が、私の頭の中で輝いて見えるのが嫌だから。
3年間過ごした高校では、とうとう誰の顔も記憶しませんでした。
一度父の顔が脳裏に鮮明に浮かんできた時がありました。
急いでそのイメージを打ち消しましたが、その晩のことでした。
父が運転する車が凍った道路にタイヤを取られ、スピンして大事故に遭ったと聞いたのは。
幸い、父の怪我は軽傷で済みましたが、代わりに何年も可愛がっていた金魚が死にました。
時々、全く知らない人の顔が光に包まれて脳裏に浮かぶこともあります。
その人が実在するのかも分かりませんが。
その顔が、これを読んでいるあなたでない事を、祈るしかありません。
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