体験場所:山口県下関市
私が小学生の頃の話です。
当時、下関市の実家で同居していた父方の祖母が突然、脳出血で倒れ病院に運ばれました。
一命は取り留めたものの意識は戻らず、そのまま集中治療室に入ることになったのです。
家族で面会に行っても、小さい子供は集中治療室には入室できないというルールがあり、私は祖母に会えないまま1週間ほどが経った頃でした。
休日だったその日も、祖母の様子を見に家族で病院を訪ねました。
その帰り道でのこと、買い物して帰るために近所のスーパーマーケットに向かう途中の車内で、父が急に言いました。
「今日の夕飯はおばあちゃんが好きだったカレイの煮付けにしよう。」
え?元々は違うメニューの予定だったのに…と思いましたが、母も何も言わずそれに従ったので、私もそうしました。
それから無事に買い物を済ませ家に帰宅した時の事です。
私が1番最後に玄関を入ると、父はその様子をじっと見ていました。
「どうしたの?」と聞くと「ううん。おかえり。」父はそう言いました。
変だなぁと思いました。父も一緒に外出していたのに、「おかえり」なんて普通は言いませんよね。
色々と変だとは思いつつも、その後も父を問い詰めるでもなく、夕飯にカレイの煮付けを食べ、私はいつも通り休日の夜を過ごしました。
翌日が学校だったこともあり、その日は早めに就寝したのですが、その夜見た夢の中におばあちゃんが出てきました。
夢の中でおばあちゃんは、いつも通り1階の祖父母の部屋でテレビを見ていました。
なんとなく、その夢でおばあちゃんと会話したような記憶があるのですが、目が覚めた時にはそれも忘れていました。
布団に入ったまま、ふと時計を見ると、朝8時。
遅刻だ!と思い飛び起きました。
いつもなら母が起こしに来てくれるのに、その日はそれがありませんでした。
急いで部屋を出て1階に降りて行くと、リビングから出てきた母に言われました。
「やっと起きた?・・・おばあちゃんが、帰って来たよ。」
私は一瞬さっきの夢の中で会った普段通りのおばあちゃんのことを思い出しました。けれど、なんとなく母の言う意味がゆっくりと理解できた時、涙が溢れました。
その後、一通りの葬儀などが慌ただしく執り行われ、ようやく一息ついた頃、母が父に尋ねました。
「もしかして、あの日カレイの煮付けにしようと言ったの、お義母さんが帰って来てたから?」
父には以前から若干そういう感性があったらしく、そのことを知っていた母は、あの日父が急にカレイの煮付けを食べようと言い出したことで、なんとなくそう思っていたようです。
「うん。子供たちが怖がるかもと思って言わなかったけど、車に一緒に乗ってた。スーパーには着いてこなかったけど。」
そう父は言いました。
どうやら、あの日の帰宅時も、1番最後に玄関に入った私の後ろに、祖母が居たようです。
あの時、父は祖母の死を悟ったそうなのです。
あの夜、私の夢におばあちゃんが出てきたことを話すと、父はこう言いました。
「そりゃそうだよ。お前は初孫だから。可愛がってたもん。多分これからも度々出てくるよ。」
あれから20年以上が経ちますが、父の言っていた通り、たまに祖母は夢に出てきます。
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