体験場所:大阪府交野市の実家
私が高校2年生の時のことです。
大阪の実家で同居していた母方の祖母がガンを患い、闘病の末に亡くなりました。
生前の祖母は、母が祖母にとっての末っ子だったせいか、母が大人になり人の親になっても祖母は末娘が心配で心配で仕方ないという感じでした。
そんな祖母が亡くなって三回忌を迎えた時の事です。
祖母の形見の数珠と真珠のネックレスを身に着けて母は法事に出席するつもりでした。
ですが、数日前になって準備を始めると、祖母から受け継いだ数珠がどこを探しても見当たりません。
その数珠は紫水晶を連ねて作られていて、祖母も祖母の母から受け継いだものらしく、戦時中も肌身離さず大切に持っていたものなのだそうです。
祖母が亡くなる前に母に直接手渡して、「法事の時は、必ずこの数珠を身に着ける事」「先に嫁に行く孫娘にこの数珠を受け継がせる事」と言い残していったほど、代々大切にされてきた数珠なのだそうです。
母は、普段からよく物を無くしたり、置いた場所をうっかり忘れてしまう人ですが、そんな大切な数珠を適当な場所に押し込んでおくはずがありません。
必ず家の中のどこかにあるはずだと、家族総出で母が保管しそうな場所を探し回ったのですが、結局、法事の前夜になっても数珠は見つからず、明日の法事に身に着けて行くことを泣く泣く諦めたのです。
ところが、その深夜の事です。
私は孫の中でも一番末っ子で、一番おばあちゃん子でした。だからかどうかは分かりませんが、私の夢の中に祖母が出てきたのです。
ただ、夢の中の祖母はまだ40代くらいの年の頃で、着物を着ていました。
その祖母が、自分の着物がしまってある和ダンスの前に座ると、上から下まで全ての引き出しを必死に引っ張り出そうとしているのです。
けれども、どの引き出しも重たくて開けられないようで、見かねた私が「おばあちゃん、何段目の引き出しを開けたいの?」と聞くと、「全部だよ。全部開けないと出せないんだよ。でも、どの段も着物がパンパンに詰まっているのか、重すぎて出せないよ。困ったね。」と言うのです。
そこで私はハッと目が覚めました。
辺りを見回すと、まだ日も出ていないような早朝でしたが、私は直ぐに生前祖母が使っていた部屋へ行き、灯りを点けると、祖母がしようとしていたように和ダンスの引き出しを全て引っ張り出してみました。
「おばあちゃん、何を探してたのかな?着たい着物でもあったのかな?」
上から下まで和タンスの全ての引き出しを引き抜いたものの、それからどうしたものかと思案に暮れていた時、ふと何気なく空になったタンスの中を覗き込むと、その奥で何かがキラリと光りました。
「え!?数珠…?」
私は思わず声を上げ、手を伸ばしてその光るものを取り出しました。
それはやっぱり、祖母の形見の数珠でした。
もしかしたら祖母が亡くなった後、着物を処分するかどうかで迷っていたゴタゴタの中、うっかりものの母が引き出しの中に数珠を入れ、それが何かの拍子に奥に落ちてしまったのかも知れません。
おそらく祖母は、自分の法事の時にどうしても愛娘の母にこの数珠を着けて欲しくて、私の夢の中に出て来たのでしょう。
そのおかげというべきか、私は姉の後に嫁に行ったにも関わらず、母から「あんたが持ってた方がおばあちゃんが喜ぶから。」と、紫の数珠をもらい受けることが出来ました。
今年もお盆にはその数珠を身に着けて、祖母のお墓参りに行こうと思っています。
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