【怖い話|実話】短編「踊ろう」不思議怪談(群馬県)

【怖い話|実話】短編「踊ろう」不思議怪談(群馬県)
投稿者:せぶ さん(30歳/女性/主婦)
体験場所:群馬県K市

これは実際に体験した私だから怖いと思っているだけで、正直他人からしたら怖くもなく、しょうもない話なのかもしれません。

私自身は結局その体験以降、他に怖い目にあったこともなければ、今は上京して住む場所も当時とは違います。それでも、ふと近所の小学校から楽しげな子供達の声が聞こえたり、賑やかな運動会の音を耳にする度に、私は今でも思い出すのです。あの日聞いたあの声を。

小学四年生の頃でした。

当時私が住んでいたのは群馬県。海なし県ですが、代わりに山々がそびえ立ち、自然豊かな田舎町といった場所でした。

それでも関東圏の地方都市ですし、お店が全くないわけでもなく、それに豊かな自然もあって、生活環境のとても良いところだったと思います。

小学校は私の家から徒歩15分のところにあり、毎日歩いて登校していました。

今の子供達は5月に運動会をするようですが、当時は10月ぐらいの初秋に運動会を行っていました。
その年の夏も終わり適度に涼しくなり、イチョウが実を落として紅葉が赤く染まる頃、私たちの小学校の運動会が開催されました。

田舎ゆえのだだっ広い校庭に、生徒の数は約300人。都会より一層少子高齢化の波を受けた故郷の町の小学校。広い校庭に対してやや寂しく見える人数ですが、それでも運動会は娯楽の少ない田舎町にとってはお祭りごとでした。

運動会の当日は小学校の周りに、りんご飴やら焼きそばやら楽しげな屋台が並び、保護者だけでなく近所の方々も見物にくる一大イベントです。

本番が近付くに連れて体育の授業数が増え、運動会の予行練習もたっぷりと行われ、否応なく期待の高まる運動会を、私も妹も何より楽しみにワクワクしながら当日を迎えました。

大玉転がしや百メートル走、玉入れ、綱引き、どの競技も盛り上がりました。
自分が出ない種目の時は、自分が所属する赤組を応援していました。

そうして楽しい運動会も終わりを迎える頃、最後に地域特有の盆踊りのようなものを、みんなで輪になり踊って締めるのが伝統でした。

大人になった今なら地域の伝統を守る重要性も理解できますが、当時の私は未熟で幼い小学4年生です。「こんな踊りめんどくさいなあ」と、楽しい運動会の最後になぜこんな古臭い音楽とテンポの悪い踊りを踊るのかと、正直あまり乗り気ではなく、やらされてる感覚しかありませんでした。

しかし、生徒だけではなく、先生や保護者たちも輪になって踊っている中、それを拒否することなど出来ません。

組ごとに輪になって、それに大人たちも含めて校庭に5つの輪ができた時、安っぽいカセットプレーヤーにマイクを当ててスピーカーから音楽が流れ始めます。
ドコドコドコという太鼓の音と三味線、それに合わせてガラガラ声のおじさんが歌います。

聞き飽きたその伝統曲に合わせて、私は教わったまま手を振り足を振りダラダラと踊っていました。

田舎町なので輪の中の顔はみんな大体どこかで見た顔です。
友達や友達の家族、近所のおじいさんおばあさん……。

曲が終わるまで踊らなければならない気だるさの中、輪になって踊る人たちをグルグルと見ていると、なんとなく坊主頭の男の人が目に留まりました。

その人は私たちと同じ小学校の体操着を着ていましたが、身長は大人ぐらいあったように思います。しかし踊るでもなく、足を引きずって頭を垂れて、前の人についてダラダラと歩くだけ。

「たぶん高学年の子だろうし、私よりもこの踊りがだるいんだろうな」

その時の私もそうだったように、あの人もそうなのだろうとしか思いませんでした。

楽しかった運動会も終わり、大好きな両親と妹と手を繋いでみんなで家に帰りました。

家に帰ると母が用意した昼のお弁当の残りに加え、大好きなハンバーグや揚げ物などのご馳走がたくさん出て、私と妹は再びはしゃぎながら夕飯を食べ終え、お風呂に入り、運動会の疲れからかそのまま直ぐに妹と共に眠ってしまいました。

普段から両親や妹と同じ部屋で就寝していた私は、少しぐらいの物音は気にもならず、あまり夜中に目を覚ますことはありませんでした。

ただ、その日は違いました。
ドコドコドコと、太鼓の音がうるさいのです。

こんな時間になんだ?寝ぼけながらそう思っていると、続け様に男の子の声がしました。

踊ろう、踊ろう
踊ろう踊ろう、踊ろう。

それは遠くから聞こえるようなのに、すぐ耳元で叫ばれているような不思議な感覚でした。
それにその男の子の掠れた叫び声は、何故か私に向けられているように感じるのです。

「踊ろう!踊ろう!踊ろう踊ろう!踊ろう!」

次第に激しさを増す声と共に、あたりの空気が変わるのが分かりました。
初秋の夜、涼しいくらいの気温のはずが、生ぬるく気持ちの悪い気配が漂うのを感じるのです。

声は途絶えることなく聞こえ続け、そのうち頭の中に運動会で見かけた坊主頭の男の人の姿がはっきりと浮かんできました。

高い身長に不釣り合いな体育着を着て、ずるずるずると足を引きずり頭を垂れながら、漠然と前に続いて歩いているだけの男。

怖い、怖い、怖い。

私は恐怖に凍り付いた体を必死に動かして、隣でいびきをかいている父親を揺さぶり起こしました。

声も太鼓の音もまだハッキリと聞こえ続けています。
それなのに父には何も聞こえないらしく「疲れているだけだろ」と、ろくに相手にもされません。

ただ、父を起こしたことで怪異の方の腰が引けたのか、次第に太鼓の音も声も小さくなっていき、そのうちフェードアウトするように消えていったのです。

私は眠り続ける父にしがみつき、怯えてるうちに再び眠りにつきました。

結局、その怪異はそれっきり、再び発生することはありませんでした。

あの声はいったい何だったのでしょうか?
運動会で見かけた坊主頭の男の人と何か関係があったのでしょうか?

もちろんその正体は分からないままで、ただ声を聞いただけのつまらない話ですが、私は今でも脳内にあの声がこびりついて離れません。

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