【怖い話|実話】短編「開かずの踏切」不思議怪談(北海道)

【怖い話|実話】短編「開かずの踏切」不思議怪談(北海道)
投稿者:黒内賀 さん(30代/男性/会社員)
体験場所:北海道K市の踏切

私は普段から、よく開かずの踏切を利用しています。

徒歩での通勤経路の途中にあるため避けることができない場所ですが、特に朝の時間帯は長時間閉まっていることが多く、そこで待たされるのが当たり前になっていました。

踏切が開くまでの間、スマホを見て時間を潰すのが習慣になっており、その日の朝もいつも通りスマホを見ながら遮断機が上がるのを待っていました。

ただ、その日は少し寝不足でした。前日の夜になかなか寝付けず、何度も寝返りを繰り返して、ようやく眠れたのは随分深い時間になってからでした。そんなわけで、朝もスッキリと起きられず、ぼんやりしたまま準備をして家を出ました。
そんな状態だったせいか、いつもの長い踏切待ちの時間が、余計に長く感じていました。

スマホを開いてSNSを見たり、ニュースを流し読みしたりしながら待っていましたが、時計を見るとすでに5分が経過していました。

さすがにそろそろ開くだろうと思っていたところ、踏切の警報音が止まりました。

いつも通り、特に周囲に注意を払うこともなく、私は目をスマホに落としたまま踏切を渡り始めました。

すると、踏切の中央付近に差し掛かった辺りで、ふと違和感を覚えました。

あまりひと気のない場所ではありましたが、通期時間帯ですし、それにさすがに長い踏切待ちの時間もあって、普段なら同じタイミングで渡る人もいるはずです。それなのに、その朝は踏切を渡っているのは自分一人だけ。

不思議には思いましたが、珍しいこともあるもんだという程度のことで、私はスマホから目を上げることもないまま踏切を歩き続けました。

しかし、なぜか周囲の空気がやけに静かに感じます。

私は嫌な予感がして、咄嗟に後ろを振り返りました。

すると—今さっき自分が入って来たはずの踏切に遮断機が下りていました。

私は驚きのあまり思わず足が止まりました。

確かに警報音は止んでいるのに、踏切は開いていない…

それなら私はどうやってこの踏切の中に足を踏み入れたのだろう?

私は、遮断機が下りたままの踏切の中に立ち尽くしてしまいました。

その瞬間でした。
さっきまで聞こえなかったはずの警報音が、耳に突き刺さるほどの大音量で頭に響きました。

「え?どうして気付かなかったんだ?」
「警報音は止んでないし、遮断機も上がってない!」
「それならどうして私は踏切を渡っているんだ?」

さっきまで全く気にならなかった警報音が、今は頭を締め付けるように鳴り続けています。

色々なことが頭を駆け巡る間に動悸が激しくなり、「とにかく急いで踏切の外に出ないと」、そう思って踏切の端まで走り、体を低くして遮断機の下から転がるように外へ出ました。

心臓が爆発しそうな鼓動を刻み、呼吸も乱れ、スマホを握る手に汗が滲んでいるのがわかります。立ち上がる気力もなく、座り込んだ目の前を列車がすごい勢いで走り抜けていきました。

そんなとき、不意に舌打ちのような音が聞こえました。

驚いてすぐに顔を上げましたが、周囲には誰もいません。
自分の他には遠くを歩く人影がちらほら見えるくらい。
車のエンジン音すら聞こえません。

誰かがいたのか、それとも気のせいだったのか、動揺している私には判断が付きませんでした。

列車が走り去った後、辺りは相変わらず静かで人の気配もありません。

もしあの時、遮断機が下りていることに気付かず、あのままスマホに目を落としたまま踏切を渡り続けていたら、いったい私はどうなっていたのだろう。そう考えると、背筋が冷たくなりました。

とにかく、この場から早く離れようと足の震えを無視して立ち上がり、スマホをポケットにしまい踏切に背を向け歩き出しました。

あれ以来、私は踏切では必ず周囲に気を付けるようになりました。スマホなんて以ての外です。
 
あの日のことを思い出すと、警報音が止んだからといって、踏切が開いたと決めつけるのは危険だと痛感します。ほんの数秒の油断が取り返しのつかない事態を招くかもしれません。

今でもあの体験が何だったのかは分かりませんが、あの舌打ちのような音は今でも耳に残っています。

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