【怖い話|実話】短編「雨合羽の男」不思議怪談(京都府)

投稿者:あおい さん(37歳/女性/ライター)
体験場所:京都府京都市 四条駅付近

これは、ある雨の夜に体験した出来事です。

当時、私は京都のIT企業でテスターとして働いていました。
その頃は仕事が忙しく、毎晩のように残業をしてヘトヘトになって帰路に就いていました。

その日も事務所を出る頃には22時を回っていたと思います。
外は雨が降っていて、冬だったのでいつもより空気がひんやりと感じました。

雨の帰り道
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私が働いていた事務所は徒歩5分の距離に地下鉄の駅があり、交通の便がいいところでした。
街中なので日中は大勢の人が通りを歩いているのですが、平日の夜遅くになるとその数はぐっと少なくなります。

私の住むアパートは地下鉄で1駅の場所なので、事務所から直接アパートまで歩いても15分ほどで帰ることができました。
ホームで電車を待つ時間も惜しかった私は、その日はそのまま歩いて帰ることにしました。

通りには傘をさした人がパラパラといて、駅に向かって歩いています。
静かな場所を歩きたかった私は、あえてひと気のない住宅街の方から帰ることにしました。
雨の中を歩くのは億劫でしたが、むくんだ足も少しは楽になるだろうと思い、濡れた路面をカツカツと歩いていました。

アパートまで半分の距離まで来た頃、私は冷蔵庫の中が空っぽだったことを思い出しました。

住宅街を抜けると大通りにつながる道に出るのですが、その道沿いにちょうどコンビニがあります。
食欲はありませんでしたが、軽い晩ごはんと朝ごはん用のパンを買って帰ることにしました。

住宅街を抜け、ぼーっと光るコンビニの看板を頼りに歩いていた時です。
電柱の下に男性が立っているのが視界に入りました。

その人はグレーの雨合羽を着ていて、両手をだらんとぶら下げたまま地面を見つめています。
年齢は40代くらいで、冷たい雨が降る中、身じろぎもせずにそこに佇んでいました。

電柱の下に立つ雨合羽の男
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雨合羽を着ていたので「警備員さんかな…?」とも思ったのですが、周囲に工事中の場所はないし、そもそも男性は通りに目を向けることなくひたすら地面を見つめています。

近づくに連れて私はだんだん気味が悪くなってきました。
(もしかしたら、誰かが通りかかるのを待つ変質者かもしれない。)
そう思ったんです。

来た道を引き返そうか迷いましたが、男性の前を通り過ぎればすぐにコンビニです。
それに今歩いて来た道はひと気も街灯も少なく、もし後ろから追いかけて来られたら逆に危険だと感じました。

すれ違いざま傘の下から様子を窺うと、男性は手ぶらで特に武器のようなものも持っていないようでした。
全く荷物がないのも気味が悪かったけれど、私はとりあえず何も気にしていない素振りで男性の前を足早に通り過ぎました。

コンビニに入り店内から後ろを振り返ると、男性が追いかけ来る気配はありませんでした。

どういう目的で立っているのかは分かりませんが、暴れているわけでも服を脱いでいるわけでもないので、「不審者がいる」とコンビニの店員さんに訴えるのは気が引けたので止めました。

買い物をしながら悩んだ末、私は店を出ると同時に電柱の方は振り返らずにダッシュでアパートまで帰ることにしました。
そのまま走って大通りまで行けば、たとえ追いかけられたとしても誰かに助けを求められるはずです。

疲れた身体が重たかったのですが、私はコンビニを出ると同時に人通りの多い場所まで必死に走りました。

大通りに出てしばらく行ってから背後を振り返ると、男性の姿はありませんでした。
何事も無くてよかったと、私は安心しながらアパートまでの残りの道を歩きました。

帰宅して数時間後、晩ごはんとシャワーを済ませた私は、ラグの上に横になってウトウトしていました。

ちゃんとベッドで寝ようと思うのに、起き上がるのが面倒でなかなか動けません。
せめて寝落ちする前にアラームだけはセットしておこう、そう決心して上半身を起こそうとした時です。

全身がビキッと石のように固まるのを感じました。
頭は起きているのに身体だけが眠ってしまったように指一本動かせません。

恐らく金縛りと呼ばれる現象だと思うのですが、私はそれまでも疲れている時はよく経験することがあったので「ああ、またきたか」という程度で、特に恐怖を感じることもありませんでした。

ただ、いつもと違って一つ妙だったのは、瞼は閉じているのに、何故かはっきりとした映像が見えていたことでした。

それは、ラグの上で横になっている自分の姿を、枕元に立って見下ろしている映像でした。

自分を見下ろす自分
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幽体離脱というものなのでしょうか?
それまでの金縛りでは一度も経験したことがないものでした。

ただ為す術なく自分の姿を見下ろす感覚だけの私。

目をつむることも出来ませんし、何も抗うことが出来ない異様な状況に、私の中でゆっくりと恐怖心が膨らんでいきました。

(今回は何か違う…)

重たい空気の中でそう感じた時です。

『ピンポーン』

部屋に呼び出し音が響きました。

そのチャイムは来客があった際にアパートの共有玄関から鳴らすものです。
人が来る予定はありませんでしたし、真夜中のこんな時間に何の連絡もなく誰か訪ねて来るはずもありません。

『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』

それなのに、チャイムの音は私が部屋に居ることを知っているかのように何度もしつこく鳴り続けます。

恐怖に耳を塞ぎたくても、目をつむりたくても、感覚だけの私にはそれができません。

しかもチャイムの音は何故か鳴る度にそのボリュームが徐々に大きくなっていきます。

『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』

何もできないまま混乱する私を他所に、有り得ないくらいチャイムが大きくけたたましい音になった時、

「もうやめて!」

恐怖の限界
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恐怖が限界に達した私は心の中でそう叫びました。

すると横たわった身体に意識が戻り、次の瞬間私の上に『ドン!!』と何か大きなものが乗りました。

私は悲鳴をあげることもできず、そのまま気を失ってしまいました。

次に気が付いた時には、もう夜が明けていました。
テレビも電気も点けっぱなしのまま、私は一人、部屋でラグの上に横たわっていたんです。

今思い出しても、あの体験が夢だったとは決して思えません。
自分を見下ろす異様な状況、それに音や衝撃の生々しい感覚は、むしろ現実以上にリアルに感じました。

あの夜、何かが私を訪ねてアパートにやってきたことは確かだと思っています。
あのしつこいインターホンや身体に受けた衝撃には、確実に悪意のようなものを感じたから…

あれから何度もあのコンビニの前を通りましたが、雨合羽の男の姿を見かけることは二度とありませんでした。

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