【怖い話|実話】短編「寝たふり」不思議怪談(新潟県)

【怖い話|実話】短編「寝たふり」不思議怪談(新潟県)
投稿者:cross さん(40代/男性/会社員)
体験場所:新潟県長岡市と新潟市の間の山道

私が大学生の頃だから、もう20年も前になるだろうか。
肌寒かったがまだ雪はなかったから、おそらく秋の終わりくらいだったと思う。

新潟県長岡市から新潟市へ車で遊びに行っていた私は帰りが遅くなってしまった。しかし宿泊するお金もないので、仕方なく眠い目をこすりながら暗く細い山道を自宅へ向けて車を走らせていた。

民家もなければ街灯も頼りにならない山道で、時折すれ違う対向車のヘッドライトだけが刹那的に道を照らしてくれるが、すれ違うとすぐに闇が戻る。そんな山道をひたすら進んでいた。

しかし、やはりというか、遂に私の眠気は限界に達した。
カーブの多い山道では一瞬の気の緩みが命取りになる。少しでも居眠りしようものなら確実に事故を起こすだろう。

時刻はAM2:00を回っていた。
早く帰ってベッドで眠りたいという気持ちもあったが、まだ1時間以上の道のりだ。仕方なく私は少し仮眠を取ることにした。

少し先でちょうど駐車場らしきスペースを見つけた。周囲には特に建物も見当たらないため、店舗の駐車場ではなさそうだ。他に駐車している車もないので、ここに駐車させてもらっても大丈夫だろうと考えた。言っても2,3時間仮眠を取るだけだ。

私はそのスペースに車を止めると、少し迷ったがエンジンも切った。秋の終わり、夜の寒さがきついとはいえ、今さっきまでエアコンをかけていたので車中には暖気が残っている。それにエンジンがかかっていると音が気になってしまう。
ただ、眠っている間に車内の温度も下がるだろうから、私は上着を頭から毛布のように被ると、シートを倒して目を閉じた。

やはり疲れていたのだろう。すぐに私は眠りに落ちたと思う。直ちに記憶は途切れた。

どのくらい時間が経ったのか分からないが、私はふと目が覚めた。
いや、目は閉じたままだったが、眠りからは覚めた。

なぜなら、頭から上着を被っていても分かるくらい、外から誰かに照らされているのを感じたからだ。

しまった。もしかしたらこの駐車場の持ち主が、勝手に停めている車を見つけ、懐中電灯で車の中を照らして覗いているのかもしれない。

外から差し込む光は様々な位置や角度から車内を照らしている。おそらく車の周りをうろついているのだろう。ただ、逆に言うとその光源はどこか一か所に留まることがなく、それに常にユラユラと光量が変化しているように感じられるのが不思議だった。

しかし私は寝ぼけていたのだろう。恐怖や不安を覚えることはなく、むしろ眠いし面倒くさいという気持ちが勝っていた。

きっとこちらが身を起こした途端、向こうの小言が始まるだろう。それを聞かされた上でハイすみませんでしたとここを去るほどの元気は私に残っていなかった。

このまま上着を被ったまま寝たふりを続けていれば、案外万事うまくいくのではないか。そんな無精に駆られ、私は外の光を無視して眠り続けることに決めた。

するとしばらくして、外で揺らめいていた光が消えたのが分かった。

(やっぱり上手くいった)そう目を閉じたままほくそ笑むと、私は光の消えた静寂の中でもう一度安心して眠りについた。

それから数時間ほど経っただろうか、外はすでに明るくなっているようだ。
私は目を覚ますと同時に、寒さに身がすくみ両手で体をさすった。

横になったまま被っていた上着を取ると、フロントガラスの向こうに曇天の空が見え、なんだか朝から気が滅入った。

ん~っと伸びをして起き上がると、今度はフロントガラスの向こうに、一面の墓地が広がっていた。

どうやら昨晩から私が車を停めていた場所は、山間にある墓地の駐車場だったらしい。
そんな場所で車中泊してしまうとは、今更ながらゾッとした。

それと、同時に思うことがあった。

昨夜私の車を照らしていた誰かは、この墓地の管理人だったのだろうか?
しかし辺りを見渡す限り、どこにも事務所や詰所のようなものが見当たらない。

そしたらわざわざあんな夜中に車で見回りに来たのだろうか?
いや、しかし昨夜は光が消えたあと車の音など一つも聞こえなかった。そもそも明かりが車の周りをウロウロしている間も一切音などしなかったような気がする。

本当に誰か来たのか?
だいたい本当に「誰か」だったのか?

そういえばあの時、光が妙に揺らめいているのが気になったことを思い出した。光量がユラユラと揺れて安定しない。それは懐中電灯の明かりというよりは、まるで炎のような揺らめきだった。

目の前の墓場を見渡すと、昨夜の光が『人魂』だったとしか私には思えなかった。

そこまで思い至ったあと、私は暑くもないのに汗ばんだ手でエンジンをかけ、振り返ることなく車を出した。

この時ほど私は寝たふりをした自分を褒めたことがない。

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