
体験場所:神奈川県K市
これは私の友人A君の身に起きた話です。
私がA君と知り合ったのは高校生の頃、ファーストフード店でアルバイトを始めたのが切っ掛けでした。A君も少し前からそこでアルバイトをしていたんです。
お互い高校は違ったのですが、高校のエリアが近くだったこともあって馬が合い、すんなりと仲良くなれました。
バイト先では1ヶ月ほどA君の方が先輩だったので、業務に関する様々なことを優しくレクチャーしてくれて、非常に助かりました。
ある日のことでした。
バイトの休憩時間、控え室で突然A君が「この前、なんかおかしな出来事に遭遇したんだけど…」と神妙な顔で近づいてきました。
その頃の私は都市伝説とか怖い話とかにちょっとハマっていた時期で、少しテンション高めに「なになに、なんか怖い話?」とA君を煽るような反応を返してしまいました。
するとA君は「怖いというか、よく分からないんだよ。今でも…」と意味深な前置きのあと、その内容を話してくれました。
なんでも、休日にA君が1人で地元のとある交差点歩を渡っていた時のこと、すれ違いざまにサラリーマン風の男性から「ハズレ」と小さな声で囁かれたらしいのです。
A君はすぐに振り返り男性の姿を確認したそうなのですが、全く面識のない人だったそうです。
「ハズレ?何のことだろう?」
A君はそう思いながら男性の後ろ姿をジッと見ていたのですが、男性は全くA君を振り返ることもくそのまま反対へと渡って行ってしまったそうです。
「気持ちわる…」
その時はそんな風に思っただけでした。
それから数日後、A君はまたこの前と同じ交差点で、信号が青に変わるのを待っていました。
人はまばらで、横断歩道の反対側には数人の人が立っています。
信号が青に変わりA君が歩き出すと、耳元でまた「ハズレ」という声が聞こえたそうです。
振り返ると、またこの前と同じスーツ男性の後ろ姿を見つけ、A君は困惑しました。
「又、ハズレって言われた…」
この前のこともフラッシュバックして、A君はなんだかモヤモヤした気持ちで帰宅したそうです。
考えてみると、前回も同じ交差点だったことをいぶかしく思ったA君は、今度は自ら敢えてこの出来事を検証してみようと思い立ち、学校終わりの放課後に1人でその交差点へと向かったそうです。
交差点に到着すると、信号機は赤点灯。A君は再び横断歩道の前に立ち、信号が変わるのを待ちました。
横断歩道の向こう側にも複数の人が信号待ちをしていましたが、その中に例の男性の姿はなかったそうです。
信号が青に変わり、再びA君が横断歩道を渡り始めると、「アタリ」という声が聞こえて、A君は咄嗟に振り返ったそうです。すると、やっぱりそこには例のスーツ男性の後ろ姿があって、
「今度はアタリって言われたんだけど…」
A君の全身を不思議な感覚が駆け巡ったそうです。
この「アタリ」とか「ハズレ」とか一体何なのだろうと思って、それで私に相談したそうなのです。
「きっとその人、宝くじにでも当選したんじゃない?」
私はなんとなく、おざなりな回答をしてしまいました。
「んーそうかもね・・・」
と、A君は今いち腑に落ちない感じではありましたが、その日はそれで終わったんです。
ただ、それ以降、なぜかバイト先でA君と全く会わなくなったんです。
「いつもシフト一緒だったのにな…」と心配になった私は、「A君って、最近バイトに来てますか?」と店長に聞くと、「あーAくん、少し前に辞めたよ」と言われて驚きました。
慌てて「どうしてですか?」と聞くと、店長から「なんか一身上の都合とだけ言ってたな」と返されて、何か嫌な予感が頭をよぎりました。
「ひょっとして、A君の身に何かあったのではないか…?」
そう思い、急いでA君の携帯に電話してみました、が…
「お掛けになった電話は、現在使われておりません」
という音声が流れてくるばかりで、結局それ以来A君とは一向に連絡を取ることが出来ませんでした。
それからしばらくして、A君と私の共通の知人から意外なことを聞きました。
「A君って、今、ある病院に入院しているらしいよ」
驚きました。けど、私にも予感がありました。
やっぱり嫌な予感が当たってしまったのかと思い、私はその情報を確認するためと、もし本当ならお見舞いに行きたくて、その病院を訪ねることにしたんです。
よく考えると、A君からあの不思議な話を聞いてから、かれこれ3ヶ月以上が経っていました。
病院を訪ねると、やっぱりA君は入院していました。
病室に入って、A君のその変わり果てた姿を見て私はゾッとしました。
大分体重が落ちたのでしょう。A君はゲッソリと痩せ細り、バイト先ではいつも元気に挨拶していた彼がめちゃくちゃ弱っていて、悲しくなりました。
「ひさしぶり」と声を掛けると、A君も「ひさしぶり」と返してくれた後、「…どうしてここって分かったの?」と、弱々しい声で返されました。
私が誰誰に聞いたと説明すると、A君は「そうなんだ…」と、入院について知られたくなかった様子が伝わりました。
なんだか病気のことを聞くのもはばかられる雰囲気だったのですが、でもどうしても気になってしまい、私は敢えてフラットなトーンで「A君って、何の病気?」と、聞いてしまいました。
やっぱり触れるべきじゃなかったな、と思案するくらいの少しの間があって、「ちょっと悪性のウイルスで…」と辛そうにA君は答え、もうそれ以上は聞けませんでした。聞かなくてもA君の泣きそうな顔を見れば、かなり重病であることは明らかでした。
同時に、数か月前にA君から聞いた話が脳裏に浮かびました。
交差点でサラリーマン風の男性がA君に囁いたという「アタリ」「ハズレ」という意味深な言葉。もしかしたらそれがこのウィルスのことを示唆していたような気がして、私は急に怖くなりました。
一年後、A君はなんとか病を克服して退院することが出来ました。
結局、「アタリ」「ハズレ」の本当の意味は全く分からないままなのですが。

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