体験場所:千葉県I市M駅の近く
これは私が高校生の頃の話なので、今からもう15年ほど前になります。
記憶も少し曖昧ではありますが、とにかくとても不思議だったことを覚えています。
それは高校1年生の時でした。
当時は友達と遊ぶことと言えばボーリングかカラオケ、それかプリクラを撮ることぐらいしかありませんでした。
その日は、テスト終わりか何かで学校が早く終わった日だったと思います。
友達数人で「どっか遊びに行こうよー」となって、結局またいつものようにボーリングに行くことになったのです。
電車でM駅まで行って、駅の近くにあるボーリング場を目指しました。
そこは私も含めてみんな初めて行くボーリング場だったので、到着してまずはマジマジと建物を眺めてみたのですが、少し古ぼけているように感じました。
建物の中に入いると、エントランスのような場所に階段とエレベーターがあり、壁にはそのビルに入っている店の広告などが貼られていて、そこはいわゆる雑居ビルのようでした。
ただ、なぜか電灯が薄暗く、なんとなくホラー映画のような雰囲気があって、少し嫌な感じがしました。
暗いし古いし、もし私1人だったら怖くて少しドキドキしてしまったかもしれません。
友達もみんなそう感じたのか、「わーなんかボロいね、なんか出てきそう」なんて口々に言いながらビルの奥へと進んでいきました。
あまりよく覚えてないのですが、ボーリング場はビルの2階か3階、もしくはそれより上の階だったと思います。
ですので私達はエレベーターに乗り込み、誰かが『閉』ボタンを押して扉が閉まったのですが…
「……………」
一向にエレベーターに動く気配がなく、一瞬の沈黙の後、みんな一斉に「え?ちょっと…」となりました。
扉が閉まったのになぜエレベーターが動かないのか、みんな急に焦り出しました。
すると階数ボタンの近くに立っていた子がすぐに言いました。
「え、待って待って、ごめんごめん!」
みんながその子を振り返りました。
「ごめん、行き先のボタン押してなかった!!」
一気にエレベーターの中の空気が緩んだのが分かりました。
「なんだーもう、びっくりしたー」
「ちゃんとしてよー」
などとじゃれ合いながら、エレベーターは今度こそボーリング場のある階へと上がっていきました。
ただ単に階数ボタンを押し忘れただけなのに、そのビル自体の放つ古臭いホラーな雰囲気にみんなが少し飲まれていて、それが一瞬の恐怖につながったように思いました。
ボーリング場に入ると、中は比較的新しく綺麗だったので、私達も少し安心して、その後はボーリングを楽しむことが出来ました。
久しぶりのボーリングだったことと、仲の良い友達と遊べることがそれはもう嬉しくて楽しくて、私はさっきのエレベーターでの一件の事はすぐに忘れていました。多分みんなもそうだったと思います。
そうして何ゲームか遊んだ後、そろそろ帰ろうかということになりました。
その頃にはもうさっきの恐怖心なんてすっかり消えていて、ボーリングの結果にワイワイ盛り上がり「この後どうするー?」なんて話しながらボーリング場を後にしたのです。
1階へ降りるために再びエレベーターに乗り込んだ時、友達のだれかが笑いながら言いました。
「今度はちゃんとボタン押してよねー」
するとみんなも笑いながら、
「わかってるよ~もう~」
なんてふざけた掛け合いをしている間に、誰かがきちんと1階のボタンを押して、私もそれをハッキリと確認しました。
エレベーターの扉が閉まり、下へ降り始めたのを体で感じました。
私はボタンの上にある階数表示を見ていました。
エレベーターが降りていくのに合わせて、階数表示もどんどん下がっていきます。
4F、3F、2F、…1階に着いた!
と思ったのも束の間、どういうわけかエレベーターに止まる気配がありません。
なぜかそのまま下がっていくんです。
周りの友達も気が付いたようなのですが、「………?」と、驚く余裕もなく固まっています。
「え?ちょっと!待って待って、なんで地下に行ってるの!?」
誰かが言ったその一言で、一瞬の沈黙が一気に不安に変わりました。
「きゃー!なんで?ねぇ!なんで!???」
悲鳴もあがりました。
その間にもエレベーターは下へと降りていきます。
「待って!?なんで?なんで1階通り過ぎたの???」
「やだ、怖い怖い!!」
私も含めてみんなが疑問を叫び声にして喚き散らすと、直ぐに、
『チーン!』
と音が鳴って、みんなの声が止みました。
表示階数はB1でした。
ゆっくりと開く扉を見つめながら、みんな息を飲んで扉の前にいるであろう誰かの気配を探りました。
開いた扉の先に、人はいませんでした。
目の前にはお店も何もないB1フロアが広がっていて、廊下には掃除用具やガラクタが無造作に置かれているのが見えます。
「ねえ早く戻ろ!!早く1階押して!!!」
その声に反応した誰かがボタンを押したようで、扉はゆっくりと閉まり、再びエレベーターは上へと上がっていきました。
祈るような気持ちでみんなが回数表示を見つめました。
それが1Fを示した時、『チーン!』と音が鳴って、ゆっくりと開き始めた扉を待ちきれず、みんなワラワラと外へと飛び出しました。
「…地下、誰もいなかったよね?なんで地下に行ったんだろ?」
「…ボタン押した人がいないなら、エレベーターが地下に降りる必要ないよね?」
1Fに戻って一息付けたのか、みんな少し落ち着いた様子で口々に疑問を言います。
「あれじゃん?誰かボタン押したけど、やっぱりやめて立ち去ったとか!」
「誰かって、誰?」
「掃除のおじちゃんとか!」
冷静ぶってそんなことを話しながらも、みんなの足は勝手に歩き出していて、早く建物から出ようと私達は小走りでそのビルを後にしました。
外に出てからもみんな、B1でボタンを押したはずの誰かのことを推察していました。
ただ、口にはしませんでしたが、私には一つ思うことがありました。
そもそも、地下で誰かがボタンを押していたとしても、1階を指示して上から降りてきたエレベーターは、まずは1階で止まるはずだよな、と。
結局、あの現象が何だったのかは分かりません。
単純にエレベーターの故障だったのかもしれません。
ただ、それ以降、私がそのビルを訪れることはありませんでした。
以上が高校生の時に私が体験した、少しだけ不思議なお話です。
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