体験場所:千葉県T市 T駅の近くのアパート物件

当時、私は1棟アパート・マンションの不動産コンサルタントとして仕事をしており、お客様の資産形成のお手伝いをしていました。
それは、蒸し暑い八月のお昼時のことでした。
その日もアパート1棟の購入を検討されているお客様より会社にご連絡を頂き、直接相対での打ち合わせをしていました。
希望条件のヒアリングを済ませたあと、実際にお客様のご希望に沿ったアパート物件の提案を行いました。
それは千葉県T市にある、T駅にほど近い物件でした。
お客様は物件資料を見るなり直ぐに「これいいね!」と言ってくださいました。
私も嬉しくなり、「ありがとうございます!では、このあと一緒に物件を見に行きましょう!」と伝えると、お客様から二つ返事でOKを頂けました。
ですが、そこで私はハッと思い出しました。
お客様に伝え損ねていた内容があったのです。
「お客様、お伝えし忘れていたのですが、実はこのアパートの一室で、以前人が亡くなったことがあり、いわゆる事故物件と呼ばれるものなのですが…」
お客様から快いお返事を頂いた後でこの話を切り出すのは気が引けましたが、後々問題になるのは避けたかったので、仕方なしに私はお伝えしたのです。
すると、それを聞いたお客様はキョトンとした顔で言いました。
「…別に、問題ないですよ?」
私はその言葉を聞き安堵しました。
事故物件であっても涼しい顔をされているお客様の反応は意外でしたが、何はともあれ、お客様には事故物件である旨もしっかりお伝えした上でご理解頂けて、私は心からホッとしたのです。
その後、改めて仕切り直し、お客様と共にそのアパート物件へと足を運びました。
「事故物件といっても、8部屋あるうち1部屋で亡くなった方がいらっしゃるというだけで、それに室内は既に清掃も綺麗に済んでおり、匂いも全くせず、むしろ他の部屋よりも綺麗になっているんです。」
と、物件へ向かう道中の車内で、私はお客様に少しでも安心して頂けるよう物件の説明を続けました。
実際に設備交換やクリーニングの実施により部屋が綺麗に仕上がっていることは、以前に私自身も室内を見に行き確認しておりました。それは本当に人が亡くなっているとは思えないほど綺麗な部屋でした。
アパートに到着後、私は直ぐに空いている部屋の鍵を開け、お客様に少しのあいだ室内を見てお待ち頂くようお願いをしました。そのアパートは駐車場が付帯していない物件でしたので、私は周辺で時間貸しの駐車場を探しに行く必要があったのです。
八月ということもあり帰省者が多いためか、周辺の駐車場はどこも埋まっており、見つけるのに手間取ってしまいました。少し離れた駐車場でようやく車を停めて、急いで先ほどの物件へ戻ったのですが、すると、どうもお客様の様子が変なのです。
お客様が部屋の中ではなく、部屋の外、扉の前で待たれているのです。
(…なぜだろう?)
疑問に思いながらお客様に歩み寄ると、その答えはすぐに分かりました。
改めて私も室内に入ってみると、リビングの床に黒く大きな焦げ跡が付いていたのです。
それも、人が横たわっているような形の。
その人型以外は、張り替えられた綺麗な白い床なのに…
しかも部屋には腐った卵のような腐敗臭まで充満しています。
私は何がどうなっているのか理解できませんでした。
実際に部屋は綺麗にクリーニングが施されたはずで、それを私も自分の目で確認していました。それなのに、まるで今しがた人が亡くなったばかりのような生々しい痕跡がそこに残っていたのです。
目の前の信じられない光景が、八月の暑さを余計に助長して、私は汗が止まらなくなりました。
「事故物件とおっしゃいましたが、ここの入居者はどうやって亡くなったのですか?」
とお客様に聞かれたのですが、私自身もどのようにして亡くなったのか詳しいことは把握していませんでした。
当然お客様がその物件を購入することはありませんでした。
後になって、その部屋で亡くなった入居者のことを上司から聞きました。
遺体が見つかったのは容赦なく日差しが照り付ける八月の暑い日だったそうで、入居者はリビングで横になり亡くなっていたところを発見され、その腐敗集は酷いものだったそうです。
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