体験場所:群馬県T市
駅の近くにある高校生を対象とする学習塾の教室長を務めている者です。
弊社では、教室長という立場の人間も授業を担当しているのですが、この話は私が普段から授業で使用している「第12教室」という、校舎内でも大きめな教室にまつわるものです。また、現在でもこの現象は続いています。
「プリントを配ります。1部取って後ろにまわしてください」
という声掛けは、学習塾の教室内で日常的に見かける光景です。
しかし、私が第12教室で授業をしている時に限って、「先生、1つ足りません」ということが、なぜか頻繁に起こります。「足りない」という声が上がる列は、その日によってまちまちです。
私は決まって人数分よりも3部多くプリントを印刷して教室に入るのですが、授業後に何度数え直しても、当日の出席者よりも1部多くプリントがなくなっています。
最初は誰かが悪戯しているのかな、くらいにしか思っていませんでした。
けれども、第12教室で私が担当する授業は、対象の学年も学校も毎回異なります。それでも、プリントが1部足りないという現象は私の担当授業で頻繁に起こっています。
どうやら、特定の生徒の仕業ではない、ということなのでしょう。
現在の校舎に私が着任したのは今年度からです。
着任後、しばらくしてから(確かゴールデンウィークくらいに)この現象に気付いて、私は同じ第12教室で授業をする同僚の先生にも、この件について尋ねてみました。
しかしながら、こんなことが起こっているのはどうも私の授業だけのようで、特段教室そのものに問題があるというわけではないようです。
現在でも、プリントが不足する現象は決まって第12教室でのみ起こっています。
秋頃になって、気味の悪いことに気が付いてしまいました。
実はこの現象は毎回必ず起こるわけではなく、時々プリントがぴったり足りる日があるのですが、そのような日は決まって次のような電話が必ず校舎に掛かってきている事を知りました。
「すみません。今日、塾長先生の授業休みます」
ガチャリ、ツーツー…。
氏名も学年も言い残すことなく、早口で欠席だけを告げる連絡が留守電に残されているのです。
若い男性の声なので、たぶん生徒本人なのですが、電話口の声だけでは誰なのか特定するには至りません。着信履歴も膨大ですし、非通知のものも散見されます。
それに、気味が悪いのが、近隣の女子高校の生徒のみを対象にした授業の日にも、その男性の声で欠席連絡が入るのです。
この留守電を聞きながら、「だれでしょうねえ。困るなァ…」と私が言っていると、「ああ、そういう電話、たまに来ますよね。名前確認しようとしてもすぐ切っちゃうし」と、若い数学の先生が言いました。すると他の先生からも、自分も同様の電話を取ったことがある、という声が上がりました。
まあ、特に実害があるというわけでもないので放置していたのですが、先日、ちょっと私の理解を超える出来事がありました。
深夜までの校舎業務を終えて帰宅すると、自宅アパートの郵便受けに、なにやらクリアファイルが突っ込まれています。無色のもので、弊社のロゴが入っていました。かなり厚みがあって、中には私の授業プリント類(B4版)が乱雑に2つ折りにされて大量に入っていました。
ぎょっとしたのですが、やむを得ず郵便受けから取り出して居室で詳しく中味を検めますと、鉛筆や赤ボールペンを使用した判読の難しい筆跡(恐らくは男子生徒の)で色々と書き付けられていました。
その中に混じって、授業中に居眠りをする生徒特有の、意味をなさない線も何本も入っていました。意識が途切れそうになって舟を漕いでいる際に、脱力したペン先で無意識に残される、あの線です。
プリント類はどれも、私が今年度、第12教室で行っている授業の教材でした。
校舎の誰かの仕業だろうとは思うのですが、正直なところ、私には誰がやったことなのか見当もつきません。
生徒や保護者が私の住所を知っているはずはありませんし(SNSのアカウント等も含めて個人の連絡先は秘匿し、生徒・保護者と校舎外での交流は厳に慎むよう弊社の規則で定められています)、かと言って、同僚がこんなつまらない悪戯をするとも思えません。
問題のプリント類をクリアファイルごと校舎に持っていきましたが、もちろん心当たりのある社員はいませんでした。
実害がないので、警察に相談するのもためらわれます。
ただ、ひとつだけ私の心に引っかかっていることがあります。
過年度の生徒なのですが、ナルコレプシー(過眠症)に悩んでいる、という男子生徒がいました。
「やる気はある」と本人は言うのですが、どうしても授業中に居眠りをしてしまい、その度に私に揺り起こされていました。
既に昨年度末で高校は卒業しているはずの学年であり、年度途中で成績不振を理由に退塾となっていた生徒です。
しかも、前任の校舎で受け持った生徒ですから、現在の私の校舎で悪戯が出来るはずもありませんし、私の新居を知るはずもありません。
でも、似ているんです。
プリントに残されていたあの筆跡…。
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