体験場所:東京都文京区 某高等学校
これは私が高校2年生の時に体験したお話です。
昔から演劇が大好きだった私は、高校でも演劇の強い学校で演劇部に所属していました。
その演劇部では主に戦争を題材にした作品が多く扱われ、毎年顧問の先生が新しい台本を書いては夏の大会などで発表するというのが定例でした。
戦争ものの他にも、流産や犬猫の殺処分など、きわどい題材を扱う台本も多かったので、公演前には必ず神社にお参りすることも忘れてはいけない恒例行事の一つでした。
私が高校2年生の時のことです。
その年の夏の大会では、ひめゆりや沖縄戦のことを題材にした劇を公演しました。
劇の中盤には、防空壕に立てこもった日本兵が、敵に見つからないために泣き止まない赤ちゃんを殺してしまうという残酷なシーンがありました。
その赤ちゃんは人形を使って表現していたのですが、それが目・鼻・口もないようなお粗末な人形で、手や足など人間の形を模すこともなく、赤ちゃん程度の大きさの布の中に、ただただ綿を詰め込んだ枕のようなものでした。
そういった小道具の数は公演の度にものすごい量となり、毎回部室が大変なことになってしまうので、公演が終了すると部室から一度全ての道具を外に出して整理するのも毎回の恒例行事でした。
その年も無事に公演が終わり、部室を片付けている時でした。
棚の奥から例の赤ちゃんの人形が出て来たのを見て先生が言いました。
「その人形もいつも通り神社でお焚き上げしないとね。もし今からでも神社の許可が降りそうなら早めに行ってしまおう」
劇で使った人形や思いの詰まったような小道具などは、公演前のお参りと同様に、公演後には神社でお焚き上げをしてもらうのが慣例でした。
直ぐに神社に確認の電話を入れると、いつもお世話になっている神社がその日は都合がつかず、他の神社なら直ぐに対応して頂けるとのことだったので、今回はそちらの神社を訪ねることにしました。
顧問の先生が1人、それと部長と副部長だった私の3人でその神社を訪ねることになりました。
電車での移動中、人形は部長が持っていたことを覚えています。
神社に到着して神主さんとお話をした後、だいたいいつもの神社と同じような流れでお焚き上げが行われました。
お焚き上げ中は全員が携帯の電源を切っていました。
無事にお焚き上げが終わり、帰りの電車内で再び携帯の電源を入れると、私たち3人の携帯全てに学校にいる部員たちから不在着信が入っていました。
どうしたのだろうとも思いましたが、すでに学校も近かったですし、もう一人の顧問の先生も残っていたので、私たちは折り返し掛け直すこともせずに学校に戻りました。
ですが、学校に到着するとなんだか部員たちが騒がしくしていて、中には泣いている生徒もチラホラいました。
何があったのか訳を聞くと、私たちが学校を出た後、部室の掃除をしていた生徒の1人が『パンドラの箱』を開けたというのです。
『パンドラの箱』とは私たちがそう呼んでいるもので、中には戦争ものの劇で使う血糊や汚し、銃弾痕の付いた兵隊服など、少し忌まわしいような小道具を入れてある箱の事です。
私たちが学校を出た後、公演で使用した兵隊服を整理しようとパンドラの箱を開けた時、その生徒は一気に血の気が引いたと言います。
「箱の中の一番上に、さっき部長が持って行ったはずの人形があったんです。しかも、なぜか子供用のモンペとか着た状態で…」
口にすることも憚るように、そう訳を話してくれた生徒は、気味悪そうな顔をしたまま部室の奥を指差しました。
その指が指し示す先にパンドラの箱があり、そのすぐ下の床に、さっきお焚き上げしたはずの赤ちゃんの人形が無造作に投げ出されてありました。
なぜか服を着てはいましたが、確かにそれは先程お焚き上げしたばかりのあの人形でした。
信じられませんでした。
私たちは電車の中でも人形を確認していましたし、お焚き上げされたところも見ています。
それなのに今その人形が、目の前に転がっているんです。
「え・・・?どうして・・・?」
どういう訳なのか全く分かりませんでしたが、しかし、そのまま人形を放っておくわけにもいかず、顧問の先生が恐る恐る近付き拾い上げようとすると、
「あ、ちょっと待っ・・・」
と、一人の生徒が声を上げようとしましたが、先に先生が人形を拾い上げてしまいました。
その瞬間、
「えっ…あっつっ!?」
先生はそう声を上げて、再び人形を放り出してしまったのです。
赤ちゃん人形は、まるで長い時間ヒーターの前に置いていたかのように激しく熱を帯びていました。
その後、いつもお世話になっている神社に急いで連絡し、一連の出来事を伝えると、時間を作るから直ぐに部員全員で来るように言われました。
神社では再びお焚き上げをして頂いた後、全員分のお祓いをして頂きました。
その後、再び赤ちゃん人形が戻ってくることはありませんでした。
演劇では、作品によって公演中に不思議な体験をする話は付き物ですし、幽霊話で有名な劇場なども多数存在します。
私も例にもれず、舞台中に不思議な体験をしたことは何度かありましたが、中でもこの体験が一番怖かったので、今回投稿させていただきました。
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