
体験場所:千葉県N市
「蛇がいたらね、何もしないで立ち去りなさい。間違っても踏んだり痛めつけちゃダメよ。蛇は神様だからね、意地悪すると祟りに合うからね」
小さい頃から母にそう言い聞かされてきました。
千葉県N市にある実家の周りには今も畑が多く、その辺りでたまに蛇を見かけることがあります。母も小さい頃からよく見たそうで、その度にいつも黙って通り過ぎていたそうです。
私が小学生の時のことです。
学校の帰り道、友達と畑の横を歩いていると、蛇を見かけました。緑色だったのでアオダイショウだったと思います。
私はすぐに母の言葉を思い出し、声を出さずに足早に通り過ぎようとしました。
すると後ろから同じクラスの男子3人組が走ってきて「蛇だ!蛇!捕まえろ!」と騒ぐのです。
「まさか!?捕まえるなんて!そんなことしちゃ絶対ダメ」
私がそう声を掛ける暇もなく、男子の1人が蛇の尾をグッと踏んで手際よく捕まえてしまいした。
すると大柄のA君が言いました。
「この蛇は毒がないんだ!だから噛まれても平気だ。やっつけようぜ!」
それから男子3人組は蛇を踏んだり投げたり振り回したり、私はとても怖くて走って家に帰りました。最終的に蛇がどうなったのかは分かりませんでした。
次の日の朝、クラスの女の子から「今朝学校に来るとき畑を通ったら、蛇が死んでいた」と聞きました。
あの蛇だと思いました。
蛇は神様。
母の言葉を思い出し、恐怖と悲しみで胸が苦しくなりました。
当の男子3人組はそんなこと露ほども気にする様子もなく、その日も教室でワイワイ騒いでは何か悪さをしていました。その姿を見て私は不思議と寒気がし、気味悪く感じたのを憶えています。
それから1週間がたった頃、A君が車に轢かれました。
学校の帰りにランドセルを振り回して歩いていたところ、左側から来た車に轢かれたそうです。
振り回していたランドセルがA君の視界を遮り、車が見えなかったのだろうと先生たちは言っていました。
A君は足と肘を骨折し、1カ月の入院。
当然学校もしばらくお休みすることになり、彼が楽しみにしていた日光修学旅行にも行けませんでした。
私はすぐに理解しました。あの蛇の祟りだと。
振り回していたランドセルに、同じように振り回されたあの蛇が乗り移ったんだと。
1カ月後に退院してきたA君は、後遺症が残ってしまったようで、不自然な歩き方をしていました。
大好きだった野球も出来なくなり、そもそも運動や外遊びが難しいようでした。いつも乗り回していた自転車も、この先思うように乗れないそうです。
おそらく足の後遺症により、A君のこの先の人生はとても辛いものになるかもしれません。蛇は彼の命こそ奪いませんでしたが、別の形で復讐して苦しみを与えたのだと思います。
豊穣・金運・病気平癒など、蛇は日本各地で信仰される神聖な生き物です。傷つけていいはずがありません。私はこの出来事が忘れられず、今では蛇を見かけると手を合わせてから立ち去るようにしています。
大人になった今、A君は当時のことをどう思っているのか、なんとなく気になっています。

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