体験場所:神奈川県横浜市 東急田園都市線青葉台駅北口周辺
今から20年あまり昔のこと。
妊娠を機に、都心から東急田園都市線沿線のあざみ野駅に移り住んだ私は、子育てと仕事の両立をはかりながら、郊外の暮らしを満喫していました。
とはいっても、保育園探しは困難を極めました。
子育てのため、週2日出社する他は自宅勤務の嘱託扱いにしてもらいましたが、正社員でないことがネックとなり、公立保育園への入所はムリ。
会議などのテープ起こしの仕事に集中するためには、子どもを保育園に入れる必要があり、探し回ったあげくようやく見つけたのは、3駅離れた藤が丘駅という街にある私設保育園でした。
妊娠してからの転居で、田園都市線の地図が頭に入っていなかった私は、保育園への送迎時、道に迷うことも多々ありました。
それでも赤ちゃんを保育園に預けた後、(今日は自宅仕事だからいいや)と、通りすがりのカフェに車を停めてコーヒーを頂く、なんてゆとり時間も確保していました。
そんなのんきな気分が見事に覆されたのは、クライアントの11時来社を控え、10時30分の出社を予定していた日でした。

いつも通り8時に保育園に子どもを預けたまではよかったのですが、帰りの道で道路工事が始まり、別の道を走るうちに迷ってしまったのです。
国道246号に出て渋谷方向に走ればよいのですが、あたりは同じような戸建てが立ち並ぶ住宅街。
いつの間にか、保育園のある藤が丘駅より1つ下った青葉台駅まで来てしまいました。
8時半を過ぎると、早く戻らなきゃ!と焦る気持ちが渦巻いてきたのですが、気が付くと青葉台駅周辺の道をぐるぐる回っていることに気が付き、時間ばかりが過ぎて行きます。
そんな時、まるで天啓のようにとある名案がひらめきました。
『自宅に戻らず、青葉台駅に近い駐車場にクルマを預けてそのまま出社しよう』というアイデア。
すぐに駐車場を探し、なんとか駅の近くで『○○○青葉台』という商業ビルの駐車場を見つけました。
駐車場に入り、ようやく車を止めたその時です。
突然わけもなく悲しくなり、想像を絶する量の涙が溢れてきました。

『迷子になって情けない?』
『遅刻が恥ずかしい?』
そんな気持ちよりもっと激しい感情に襲われた私は、出社を前に、人けのない駐車場で声を上げて泣きじゃくってしまったのです。
9時過ぎには電車に乗らなきゃならないのに。
何とか気持ちを落ち着かせて、化粧を直し、会社にたどり着いたのは11時を5分ほど回った頃でした。
すでにクライアントがお待ちでしたが、穏やかな方で、お叱りもなく、その後ビジネスランチへ。
なごやかな雰囲気のなか、プライベートに話が及びました。
クライアントが少し前まで青葉台にお住まいだったことを知り、ついつい気を許し、今朝の迷子の件を話してしまった私。
クライアントは笑顔のまま、
「○○○青葉台のあたりは、かつて仏山(ほとけやま)という処刑場があったと言われ、怪現象が起きるなどのエピソードが絶えないところなんですが、〇〇さん(私)が道に迷われたのもそんな影響かな?」
なんて、私の顔を覗き込むのです。

迷子の件は話せても、さすがに『泣きが止まらなかった』とは言えません。
その時は、クライアントに合わせてにこにこ笑ってすませましたが、後で考えると、『なぜあんなに唐突に悲しくなったのだろう?』『大泣きが止まらなかったのだろう?』そして、『何度も同じところをぐるぐる回ってしまったのだろう?』と、いろいろと不思議な思いが湧いてきます。
あの時、“怪現象が起きるなどのエピソードが絶えない”と話されたクライアントに、「どんなお話をご存じですか?」なんて悪ノリで聞いてみてもよかったかな。
お化けの存在を信じることができない私にとって、これまでの人生で理由のわからない怖さを感じた思い出は、後にも先にもこの『○○○青葉台』で起きたことだけですが…。
ちなみに「仏山」の刑場としての歴史など、さまざまな言い伝えはあっても、史実は不明だそうです。
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