体験場所:大阪府大阪市H区
私が20代の頃の話です。
その当時、私はとにかくお金が無く、住むところにも困る程でした。
それでも、当時お付き合いしていた女性のところに転がり込むような形で、何とか日々を送れていました。
ですが、彼女と些細な事でケンカをする度に、私は部屋を追い出され、インターネットカフェで寝泊りすることも多々ありました。
その都度、彼女と仲直りして部屋に戻れてはいたのですが、追い出される度に住居を失う不安定な生活をどうにかしたいと考え、私は思い切って不動産屋に行き、その地区(大阪府H区H駅周辺)のアパートを探してみたのです。
とは言え、基本的には彼女の部屋で暮らすつもりだったので、あくまで追い出された時の緊急非難用の部屋ということで、とにかく家賃の安いところという条件で不動産屋に探してもらいまいした。
条件に合う部屋として見つかったのは、意外にも、駅前にあるアパート(荘)でした。
トイレは共用で風呂無しでしたが、駅の真ん前なのに家賃2万円と激安で、私は即決でその部屋を契約したのです。
とりあえず、普段はその部屋を物置代わりに使おうと思っていたので、入居日のその日、私は部屋に大まかな荷物を運び込んでいました。
ところが、作業中、何かおかしな感じがするんです。真夏の空の下、汗を流しながらせっせと作業している間中、終始ずっと、誰かに見られている気がするのです。
辺りを見回しても、他に誰かいるわけもありません。
(おかしいな…)と思いながらも、私はあまり気にしないように作業を進めていました。
あらかた荷物も運び終わり、ふと上を見上げた時でした。
部屋の天井に、お札が1枚貼ってありました。
少し黒ずんだ古いお札でした。
(え…?なにこれ…?)
すごく気味が悪くて気にもなったのですが、ヘタに不動産屋に聞いてトラブルが生じた場合、最悪、格安のこの部屋が借りられなくなる可能性を危惧し、私はそのお札のことについて下手に詮索することはしませんでした。
お札も、変に触るのも怖いので、手を付けることもせず、とにかくそのままにしておいたのです。
それからもしばらく、部屋を荷物置き場として生活していたのですが、たまに荷物を取りにその部屋を訪れると、やっぱり誰かに見られているような視線を感じました。
それに、その部屋に入ると、なぜか体調を崩してしまうことにも気が付きました。
なので部屋から荷物を取り出す時は、出来るだけ最速で作業を終えて、直ぐにそこから離れるように心掛けていたんです。
そんなある時、遂に彼女と大ゲンカをしてしまった事がありました。
例のごとく私は彼女の部屋を追い出されて、仕方なく、あのアパートの部屋で寝泊りすることにしたのです。
部屋に入ると案の定、誰かに見られている感覚に陥ります。
ですが特に実害はないので、とにかくまずは寝泊りできる部屋にしようと整理をしいる内、気付くとすっかり夜も更けていました。
相変わらず何かの視線を感じるし、気味が悪いのでとにかく早く寝てしまおうと思った時、急に自分の中の防衛本能というのか、何かが警鐘を鳴らし始めたのです。
それが何に対するものなのかは分かりませんでした。
真夏の熱帯夜にも関わらず、鳥肌が立ち、冷や汗が流れ、自分の中の恐怖心が溢れ出すのが分かりました。
とは言え行く当てのない私は、とにかく我慢して眠ろうとしましたが、一向に恐怖心が治まることはなく、むしろ心臓の鼓動は増すばかりです。
3時間ほどが経過したところで限界に達し、私は近くのネットカフェに逃げ込みました。
翌日、彼女とまた仲直りをした私は、そのまま彼女の部屋でまた暮らし始めました。
その後も、たまに荷物を取りにあの部屋を訪れることはありましたが、やはり何かの視線は感じるものの、それ以上の何かが起こることはありませんでした。
あの晩、とめどなく溢れだした恐怖心は一体なんだったのか?
20代も半ばを迎えていた当時の私には、お化けや幽霊などを信じる無垢な気持ちは既になく、結局あれが何だったのか、答えは出ないままでした。
それから3年程で、結局その部屋は引き払い、家賃を上げて2万5千円の普通のワンルームマンションを借りました。
引っ越しの為に軽トラをレンタルし、荷物を全て新しいマンションに移動させて、忘れ物がないか最後にあの部屋に戻った時でした。
天井のお札が新しくなっていました。
黒ずんでいたはずのお札がさらの新品になっていて、貼ってある場所も微妙にずれています。
古いアパートから新しいマンションまでは往復20分程で、その間を荷物を運んで戻ってくるまでの間の出来事です。
もちろん鍵はかけて出たですが、その間に誰かが入って取り換えたとしか思えません。
(…一体、誰が?)
不思議に思いながら、不動産屋の立会いの下、部屋で現状確認を済ます際に、それとなく不動産屋にお札のことを聞いてみると、不動産屋はそもそもお札の存在自体知らなかったらしく、
「誰が、こんなことを…」
と言ったまま、見開いた眼でお札を見つめていました。
あのお札は一体誰が貼ったものなのでしょうか?
なぜ私が部屋を出る際に、新しいものに貼り替えられていたのでしょう?
結局、何も分からないままです。
でも、あの部屋で感じた誰かの視線、それにタイミングよく貼り替えられたお札のことを考えると、やっぱりあの視線は本物だったのかもしれないと、今でも思っています。
目的は分かりませんが、誰かがあの部屋を監視していたのだと…
その後、私は新しいマンションでの生活を始めましたが、特に変わったことは起こっていません。
私の人生の中で、一番不可解な出来事でした。
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