【怖い話|実話】短編「帰宅者」不思議怪談(北海道)

【怖い話】実話怪談|短編「帰宅者」不思議体験談(北海道)
投稿者:からん さん(30代/女性/派遣社員)
体験場所:北海道札幌市の某マンション

これは10年ほど前の話です。

当時は医療系の専門学校への入学を機に、北海道の田舎町から札幌市へ引っ越し、念願の一人暮らしを始めた頃でした。

マンションの部屋は11階の角部屋で、1LDKの一室。

部屋の隣は階段になっていて、騒音に関しても上下階だけ気を付けておけば良いという好物件でした。

街へのアクセスも徒歩圏内で、通っている学校にも近かったので、よく寮住まいの友人が泊まりにきて、その子とは、もはや半分ルームシェアのような状態で生活をしていました。

ある日のことです。

その日は臨床実習でクタクタに疲れ果て、私は部屋に帰るなり直ぐにシャワーを浴びようとバスルームへ向かいました。

部屋には脱衣所がなく、玄関とリビングをつなぐ廊下の途中のドアを開けると、そこが直接バスルームという造りになっています。

私はバスルームを使う際には、必ず玄関の鍵が締まっているかをチェックしていました。

間取り上、もし廊下で服を脱いでいるタイミングで玄関ドアが開けられたりしたら、丸見えになってしまいますからね。

なのでその時も、玄関の鍵が締まっていることを確認した後、私は廊下に服を脱ぎ棄て、そのままバスルームに入りシャワーを浴び始めました。

しばらくした時でした。

「ただいま」

と、玄関の方から声がしたんです。

反射的に、半ルームシェア状態のいつもの友人かと思い、「おかえり~」と言ってから、私は気が付いたんです。

玄関ドアの開閉音が全くしなかったのです。

バスルームは玄関とリビングのちょうど中間にあり、普段なら入浴中でもドアの開閉音は必ず聞こえます。
それは例えシャワーの水音があっても同様です。間違いなく玄関ドアの開閉音は聞こえますし、もっと言うなら鍵を開錠する音すらも聞こえるはずです。

その日も確かに玄関の鍵が締まっていることを確認し、バスルームに入ったはず。

それなのに、鍵を開ける音はもちろん、ドアの開閉音すら聞こえなかったのです。

つまり、ドアは開いていないのに、「ただいま」と、誰かの声が聞こえたということになります。

仮に、その声の主が友人だったとしたら、玄関からリビングに上がる際には、必ずバスルームの前を通らなければなりません。

それなのに、バスルームと廊下を隔てる擦りガラスのドアの前を、誰かが通ることもありませんでした。
廊下を歩く足音一つしなかったのです。

聞こえたのは「ただいま」という誰かの一声だけ。

今ここで起きていることを、そこまで整理して、私は頭を抱えました。

なぜ答えてしまったのか…
私は『だれ』を呼び込んでしまったのか…

何者かも分からない帰宅者に対して、私は当然のように「おかえり」と、迎え入れる返事をしてしまったのです。

恐る恐るバスルームから顔を覗かせてみましたが、誰も居ません。
一人暮らしなので当たり前と言えばその通りなのですが。

急いで服を着てリビングのドアを開けるも、やっぱり誰もいません。
さっきまでと変わらない自分の部屋があるだけです。

さすがに困惑しました。

さっきの声は一体誰だったのか…

私の耳には落ち着いた女性の声に聞こえました。

「ただいま」と、普段通り、いつも通り帰宅しましたとでも言うような、感情の薄い声だったように思います。

もう一度、部屋の中を見回してみましたが、やはり異常はありませんでした。

仕方なくその時は、『空耳』だったと結論付け、私はいつもの様に過ごし、いつもの様に眠りました。

私が気にしないように心掛けていたのが切欠になったのか、それとも最初に返事をしてしまったからなのでしょうか。

週3回ほどのペースで、彼女が帰ってくるようになりました。

ご丁寧に毎度「ただいま」と言って帰ってくるのです。

それは、何故か私がお風呂に入っている時に限られていました。

奇妙な同居生活が唐突に始まってしまったのです。

彼女の帰宅の際には、毎度ちゃんと「おかえり」を返さなければ、ラップ音を立てるようになりました。

PCの画面をチラつかせるだとか、窓をコンコンと鳴らすくらいの些細なことでしたが、何故か拗ねているのだと分かるのです。

立地条件が良かったからか、部屋にはよく色々な友人が遊びに来たりしていましたが、その際はなりを潜めているくせに、私が一人の時に限って彼女は『帰ってくる』のです。

特に害もなかったので、私もそれに答え続けました。

「おかえり」と言うだけの簡単な話でしたし、慣れてくると、寂しい一人暮らしが少しだけ賑やかになるようにも感じていました。

その後、私が専門学校を卒業するまで、この奇妙な現象は続きました。

専門学校を卒業後、私はそのマンションから引っ越しました。
それ以来、彼女と遭遇することはありませんでした。

もしかしたら、今もまだ、彼女はあの部屋に帰り続けているのかもしれない。

そう思うと、今でも怖いというよりは、少し懐かしく、ほっこりとする思い出が甦ります。

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