体験場所:大分県 某葬儀場
これは数年前、病気で亡くなった祖父の葬儀の時の話です。
私は高校生でした。
お通夜の後、斎場では親族一同と、祖父と親交の深かった友人知人が集まって、通夜振る舞いが出されていました。
大人たちは精進料理を囲んでお酒を飲んで盛り上がっておりましたが、深夜0時を前にして、残っていたのは数人の親族と私たち家族だけでした。
遠方から来ていた親族は、そのまま斎場に宿泊する予定だったので、時間を気にする必要がなく残っていたのだと思います。
とりあえず、残った人達で棺の前にテーブルを持ち出すと、料理を並べ、それを囲んで男性陣はお酒をたしなんでいました。
すると突然でした。
亡くなった祖父の弟、つまり私にとっては大叔父(おおおじ)に当たる方が急に立ち上がり、祖父の遺影を指差しこう言いました。
「どうして俺の写真がここにある!」
え?っと一瞬みんな驚きましたが、直ぐにお酒に酔っているのだなと思い直しました。
すると大叔父は「俺はもう帰る!!」と叫ぶと、棺の横に置いていた、祖父が生前愛用していた鞄を迷うこと無くサッと手に取ると、そのまま出口へと向かって歩き出しました。
何が何だか分からず、大人たちは固まっていましたが、大叔父の千鳥足を見て危ないと判断すると、直ぐに肩を貸してなだめようとしたのですが、
「なんでこんなところにいないといけないか!説明しろ!!」
興奮気味の大叔父はそう怒鳴るばかりです。
数人で大叔父を取り囲み落ち着かせようとしますが、一向に収まる気配がありませんでした。
そんな場面を端で眺めていると、私の隣でその光景を見ていた祖母が怯えながら、
「昔の酔ったときのおじいちゃんにそっくり・・・。酔ったときにお皿を投げたり怒鳴って暴れたり、歯止めがきかなかったの。もしかしたらおじいちゃんが返ってきたんじゃないかしら・・・」
と、指を震わせながら言いました。
その間も大叔父は、興奮冷めやらぬ様子で、
「どうしてあそこに俺がいるんだ。」
「俺は死んでない!」
「馬鹿をいえ!ふざけるな!!」
祖父が眠っている棺の方を指差しては、しきりにずっと同じ事を繰り返し怒鳴り続けています。
「あれは〇〇さん(祖父)でしょ。あなたじゃないですよ。」
親戚の一人が取り静めようとそう言うと、
「どう見ても俺じゃねえか!!」
大叔父はそう言って怒鳴ります。
「顔が違うじゃ無いですか。」
と、遺影を指差して教えますが、それでも大叔父は否定します。
収拾のつかないそんな光景を眺めていると、
「おじいちゃんと弟さんは母親が違うから、そんなに似てないのよ。」
祖母がそう私に耳打ちしました。
私から見ても祖父と大叔父は似ていないと思っていたので、納得しました。
それなのに、大叔父は遺影に写っているのは自分だと言い張ってききません。
その後、1~2時間ほど大叔父の話を親戚一同で聞きなだめ、やっと落ち着いてきたかと思うと、酔いが冷めたのか、大叔父はそのまま何事もなかったかのように、再び男性陣と一緒になって楽しげにお酒を飲み交わしていました。
翌日の告別式の後、大叔父に昨日のことを聞くと、こう言ったらしいです。
「そんな事があったんですか?すみません。何も覚えていないんですよね・・・。」
葬儀を滞りなく済ませ、親戚一同が帰った後、あの光景がどうにも忘れられなかった私たち家族は、
『あれは祖父が大叔父さんに取り憑いてたんじゃないか?』
という仮説に至りましたが、祖母がその話を怖がって避けるので、私たち家族も徐々に口にすることは無くなっていきました。
今さらになって私が当時の事を家族に話すと、
「そんな事もあったなw」
と言って笑い話になっていますが、私はあの時の奇妙な光景が忘れられず、今でも鮮明に記憶を思い起こしては、少し薄ら寒さを感じています。
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