体験場所:兵庫県A市の某小学校
これは私が小学生の頃に体験した奇妙な出来事です。
随分以前の話なので、少し記憶が曖昧なところもありますが、ご容赦下さい。
私が通っていた兵庫県A市にある小学校では、六年生の夏休みになると、学年全員で学校に一泊するという宿泊学習のような行事がありました。
勉強以外にも自由時間やイベントもあり、食事の際はみんなで料理したりなど、割と誰もが楽しみにしていた行事だったように記憶しています。
その年のメインイベントは、夕食の後、暗くなるのを待ってから開始される『肝試し』でした。
仲の良い数人づつで班に別れ、班ごとに校舎の3階からスタートします。決められたコースを進み、校内に用意された各チェックポイントのスタンプを全て集め、ゴールである1階の図書室を目指すという内容です。
もちろんコースの各所には、先生も含め事前に決められていた『脅かし役』が配置されていました。
懐中電灯は各自家から持ってくるように言われていましたが、持ってくる子もいれば持ってこない子もいる感じでした。私は怖がりだったので当然持って行きましたが。
さて、夕食も済ませ、日も沈み、校内がシーンと暗闇に包まれた頃、いよいよ肝試しが始まりました。
私の班はAちゃんとBちゃんとCちゃん、それと私の4人だったと思います。
私にとっては初めての肝試しだったので、怖くはありつつも、少しワクワクしていました。
先頭の班から順番に暗い夜の校内へ消えて行くのをドキドキしながら見送り、いよいよ私たちの班が出発の番となりました。
意外にも班で懐中電灯を持ってきたのは私だけだったので、私が先頭に立って道を照らしながら進むことになりました。
窓から入る僅かな月明かりが、暗く静かな廊下を薄っすら照らすことで、窓のない部分の闇が余計に気味悪く感じます。
ようやくチェックポイントの教室を幾つか回り、無事にスタンプも回収できて、「意外と大丈夫そうだね・・・」なんて話していた時でした。
突然、懐中電灯の灯りが消えてしまったのです。
「え?何で!?早く!早く点けてよ!」と、みんなに急かされながら、私は懐中電灯のスイッチをパチパチパチパチ押すのですが、何故か点灯してくれません。
すると痺れを切らしたAちゃんが「ちょっと貸してよ!」と言って、私から懐中電灯をバッと取り上げスイッチを押すと、あっさりと点灯。
納得はいきませんでしたが、Aちゃんが持っている方が機嫌がいいのだろうということで、懐中電灯はそのままAちゃんが持つことになりました。
その後は順調に進み、むしろ私たちの班は進むのが早すぎたのか、途中、まだ準備中だった脅かし役の先生にバッタリ出会ってしまい、怖いどころか、むしろ笑えるシーンがあったりで、私は肝試しを満喫していました。
ただ、2階のコンピューター室に足を踏み入れた時でした。
突然テレビ画面いっぱいに女性の幽霊画像が表示されたのですが、この演出がいけませんでした。
私はショックのあまり「ひっ!」と息を飲んだ後、次の瞬間、「キャーッ!!」と大声で叫んでいました。
これ以降、私はどんな些細なことにも驚いてしまい「キャーキャー」叫び通しです。
もう何も見ないようにと、ほとんど目を瞑って歩くような始末で、私は友達に引っ張られるような形で先に進んでいきました。
ようやく辿り着いた最後のチェックポイントの音楽室では、中に入った途端に勝手にピアノが鳴り出し、これには私以外のみんなもパニック。
私を置いてみんな部屋から出て行ってしまったのです。
怖くて動くことも出来ずにいた私は、その場で一人、ピアノが奏でる音楽に晒されている恐怖に堪えきれず、遂に泣き出してしまいました。
結局、外に逃げ出したBちゃんが戻ってくれて、私は無事救出されたわけですが、そのまま涙が止まらず、ギャン泣きしたまま、みんなに抱きかかえられるようにゴールの図書室を目指したのです。
「えっく。ひっく。」と、酔っ払いのしゃっくりのような嗚咽が止まらないまま、ゴールの図書室のすぐ手前、1階の男子更衣室の前を通り掛かった時でした。
突然ガラッと更衣室の扉が開き、中から体操服姿の男子が倒れ掛かってきたのです。
「わっ!!」っと声を上げて、私たちは一斉にドアから離れました。
すると、倒れ掛かってきたその男子は態勢を立て直すこともなく、そのまま廊下にうつ伏せになって倒れ込んだのです。
よく見ると、その男子は私たちと同じクラスメイトのM君でした。
「まことちゃん(私)、こいつM君だから。大丈夫だよ。怖くないよ。」
Cちゃんがそう言って、まず早くゴールしようと私を抱きかかえ、おそらく脅かし役だったのであろう、そこで倒れているM君のことはそのまま無視し、私たちはようやくゴールの図書室に辿り着いたのです。
それでもまだ嗚咽が止まらない私を、班のみんなが一生懸命なだめてくれた事は、今でも忘れません。
小学生の肝試しとは言え、私にとっては本当に心底怖くて、それでも無事にゴールできたのは間違いなく班のみんなのお陰だったと思うのです。
ただ、私の肝試しは、まだ終わりではありませんでした。
ゴールの図書室は決して広くはなく、学年全員を収容できる場所ではありません。
なので、ゴールした班ごとに別の場所に移動させられたのですが、私たちはそこで、さっき体操服姿で倒れ込んできたM君を見つけたのです。
でも、そこにいたM君は体操服姿ではなく、黒いTシャツの私服姿です。
「M!さっきはよくも脅かしてくれたね!」
とAちゃんが真っ先にM君に詰め寄りました。
でも、当のM君はキョトンとした様子で、
「え?俺ずっと、ここで班のみんなと一緒にいたけど…?」
と言うのです。
予想外のM君の反応に私たちも一瞬ひるみましたが、絶対にそんなはずありません。
私たちは間違いなく更衣室の前で、体操服姿のM君に驚かされたのです。
絶対にM君は嘘をついている、そう思っていると今度はBちゃんが、
「みんな、本当にM君と一緒にいたの?」
と、睨むように、M君と同じ班の子に聞きました。
「え?いたけど・・・何で?」
一体なにを尋問されているのか分からない様子で、その子もM君同様にキョトンとしています。
「嘘だ!体操服姿で更衣室から出て来たの、絶対M君だよね?」
私も痺れを切らせて、同じ班のみんなが同調するようにそう問いかけると、
「・・・・・・」
予想外にもAちゃんもBちゃんもCちゃんも、誰も同調する声を上げてくれません。
それどころか、みんな少し困惑したような顔で私のことを見つめています。
妙な雰囲気に私も居たたまれなくなり、
「…あれ?みんなも、M君・・・見たよね?」
と、急に自信なさげに、声も一層低くなり、同じ班の子たちに問いかけました。
すると、Aちゃんが一度深く呼吸をした後、こう言ったのです。
「確かにあれはMだったけど…。体操服って…何?Mは今と同じ、この黒いTシャツ着てたじゃん。」
「・・・え?」
私は驚きました。
体操服はむしろ真っ白い無地のTシャツです。
今M君が来ている黒いTシャツとは全く対照的な色で、絶対に見間違うはずがありません。
それにさっき見たM君は紅白帽も被っていたし、間違いなく体操服姿だったはず。
私は絶対にAちゃんが何か勘違いしていると思い、BちゃんとCちゃんにも問いかけました。
「さっきのM君…体操服だった…よね?」
すると二人とも、少し答えづらそうに俯いた後、
「…違う。今と同じ、黒いTシャツだった」
と、Cちゃんがボソッと呟いたのです。
(え?どうして?どういうこと?)
私は混乱しました。
さっきまでの嗚咽は何時の間にか引いていて、むしろサーッと血の気が引くような、頭が真っ白になるような感じがしました。
M君を見たという認識はみんな同じ。
それなのに、その服装が、私が見たM君だけ違っていた…
私だけが違うものを見てしまったのでしょうか…
よくよく思い返してみると、あの時、倒れ掛かってきた男子は、そのままうつ伏せで廊下に倒れ込み、私はその顔を確認していません。
Cちゃんに、M君だと教えられただけです。
私自身は、一切あの男子がM君だという根拠を確認していないのです。
ただ、みんながM君だと言っていただけで…
私が見たあの男子は、本当にM君だったのでしょうか?
なんとなく、M君に対する追及はそのままうやむやになりました。
後日、『脅かし役』だった別の生徒に、「更衣室で脅かす予定はあった?」と尋ねると、「なかった」と答えられました。
それに、そもそもMくんは『脅かし役』ですらないとも教えてくれました。
その後、私たちの間で、この話題が出ることはありませんでした。
私が体験した話は以上になります。
結局、更衣室から現れた男の子は一体誰だったのでしょう?
私の班の子たちはみんな、一体何を見たのでしょう?
そして、私だけが見たものって・・・
真相は知りようもありませんが、私はこの出来事の後、もう肝試しなんて絶対にしないと誓いました。
コメント