体験場所:徳島県と香川県の県境 国道11号線に出る山道
これは兄と一緒に体験した話です。
その日、私と兄は香川県高松市の自宅から車に乗って徳島県に出掛けました。
二人とも見たかった映画が徳島市内の映画館でしか上映されていなかった為です。
上映時間は1日1本、ナイターでの上映でした。
映画を見終わった後、徳島市内のお店で夕食をとってから帰路に付いたため、帰りの車に乗り込んだのは夜の11時を過ぎた頃でした。
兄の車で来ていたので、運転はもちろん兄。
私は助手席に乗りました。
徳島市内から自宅のある高松市までは大体車で2時間くらいの道のりです。
慣れない道なのでカーナビをセットしてから走り出しました。
深夜の帰り道でしたが、先ほどの映画や食事の話をしたりして、私たちは夜のドライブを楽しんでいました。
徳島県と香川県の県境をまたぐ辺りで、カーナビに案内が入りました。
ナビに案内されたのは、山側へ入る道でした。
この辺りを通ったことがある人なら分かると思いますが、香川と徳島の県境辺りでは、海側に国道11号線が走っていて、交通量もそこそこあり、街灯もあって明かるく見通しの良い大きな道です。
当然その国道11号線をひた走り高松まで帰るものと思っていたのですが、どういう訳かカーナビに案内されたのは、左手に見える細くて寂しい山道でした。
兄も私も少し迷いましたが、二人ともその辺りの道に明るくないこともあって、きっと近道なのだろうとカーナビ任せにハンドルを切り山道の方へと入って行ったのです。
その先をしばらく走ると、やはり建物どころか明かりもないような細い山道が延々と続いています。
「ねぇ、ちょっとおかしくない?」
と、私は心配になり兄に声を掛けると、
「ナビが言ってるんだし、大丈夫だよ…」
と、兄は少し強張った顔で答えます。
車はどんどん山を登っていきます。
車内から見えるのは車のヘッドライトに照らされた前方の道の一部と、車を挟み込むように両脇に黒々とそびえ立つ雑木林だけ。
山道を登っているせいでエンジン音も呻りを上げて、それが余計に私の恐怖心を煽りました。
「ねぇ、やっぱり怖いし、今からでもUターンせん?時間かかるけどそうせん?」
と、私は再度兄に言いました。
しかし兄は必死にハンドルを握ったまま返事をしません。
「ねぇ…」
と、もう一度声を掛けようとした時、兄は深々と深呼吸をしてこう言ったんです。
「後ろ、見るなよ。変なのがおる。」
背筋が凍り付きました。
(え?変なの?何?それってどういう事?)
私は兄の言葉に返事も出来ず固まってしまいました。
一瞬、兄が私をからかっているのかと思ったのですが、運転する兄の一層強張った表情を見て思い直しました。
(違う…本当だ。本当に後ろに何かいる。)
その何かを引き離そうと、暗く入り組んだ山道にも関わらず、兄が出来るだけスピードを上げようとしていることが助手席からでも分かります。
危ないとは思いましたが声を出すことも出来ず、それにハンドルを握り青白くなった兄の顔を見ると、それどころではないことが伺えます。
(早く大通りに出てほしい。早く家に帰りたい。怖い。)
恐怖の余り目を瞑っていた私は、ただただそれだけを願っていました。
助手席の私でもそんな風だったのだから、ハンドルを握る兄の恐怖はどれ程だったのか…と、今なら冷静に考えられるのですが…
「大通りに出たぞ。もう付いてきてないから大丈夫やと思う。」
しばらく荒っぽい運転が続いた後、兄の言葉が聞こえ私はハッと目を開け窓の外を見ました。
目の前には海側の大通り、国道11号線が広がっていました。
その光景を目に、心の底から安堵したのを今でも覚えています。
「…兄ちゃん。車の後ろに何がおったん?めちゃくちゃ怖かったんやけど…ねぇ?」
止まっていた呼吸を取り戻しながら、私はゆっくりと兄に聞いてみました。
すると兄は、さっきみたいに再び大きく深呼吸をした後、こんな風に話してくれました。
そもそも、カーナビに従って国道を左折し山道に入ったその時から、後ろから1台の車が付いて来ていたらしいのです。
その車はなぜかヘッドライトを点けていなかったと兄は言います。
(こんな夜中の山道で、危ないな…)
と兄は思ったそうなのですが、この山道を利用する他の車があることに少なからずホッともしたそうなのです。
とは言え、ヘッドライトを点けない車が後ろに付いているのも心持ち悪く思ったのですが、そこは道の細い山道。追い抜かせて先に行かせることも出来ないし、さてどうしたものかと思案しながらチラッとバックミラーを見た時でした。
兄はその奇妙な光景に息を飲んだと言います。
後ろにいたのはヘッドライトも点けずに暗い山道を走る車。
それなのに、そのドライバーの顔がなぜかハッキリと見えたそうなのです。
しかもその顔は、笑っていたと…
それは決して楽しくて笑っている感じではなく、気持ちの悪いニタニタとした嫌らしいものだったと、眉間に皺を寄せて兄は話します。
その瞬間、暗い山道にも関わらず兄は車の速度を早めたそうです。
怯える私を横目に夢中でハンドルを切っていると、いつの間にか後ろの車は消えていたそうです。
それは速度を上げて引き離した結果なのか、それとも文字通り『消えた』のか…それは分からないと兄は言っていました。
その後、私たちは無事に家に帰り着きました。
ただ、しばらく私も兄もその日のことが忘れられず、漠然とした不安を抱えていた為、後日、念のため実家の菩提寺であるお寺に行き、お祓いをお願いしました。
2ちゃんのオカルト話みたいに、お寺の住職さんからとんでもない因縁話を聞かされることはありませんでしたが、帰る頃にはなんだかスッキリしていたのを覚えています。
今のところ私も兄もケガや病気もせず元気に過ごしております。
以上が私が体験した怖い話です。
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