体験場所:東京都千代田区神田
これは私がコロナ渦真っ只中の夏に実際に体験した話です。
さかのぼること3年前。
コロナ渦の4月に初めて発令された緊急事態宣言が明けたばかりの頃、自粛モードはその夏も続いたままでした。
週末でもどこかに出かけることはなく、私は付き合っていた彼氏の家で過ごしてばかりいました。
当時、私は四谷にある実家に住んでおり、そこから神田でルームシェアをして暮らす彼氏の家までは電車で10分ほど。ですが、コロナを恐れていた私は電車は使わず、30分ほどかけて自転車で彼の家に通っていました。
その土曜日はとても暑く、私は日没を待ってから自転車を走らせ彼の家に向かいました。
ひと気のない薄暗い道をペダルを漕いで30分、いつもの駐輪場で自転車に鍵を掛け顔を上げた時、すぐそこで信号待ちしていた女性の姿を見てゾクリと身が震えました。
顔が見えないほど長く真っ黒な髪の毛、白装束を身に着け、その隙間から覗く青白い肌。正にTHE幽霊といった容貌の小柄な女性が、スーパーの袋のようなものを両手に持って、目の前の小さな歩道用の信号を待っていました。
彼女を見た瞬間ギョッとして一瞬体が強張りましたが、本能的に一刻も早くここから離れたいという衝動に突き動かされ、女性が待つ信号と交差する側の信号がチカチカと青点滅を始めたのを急いで渡り、道路を挟んだ向こう側の歩道に逃れることができました。
渡り切ると同時に信号が赤になり、私はホッとしてもう一度女性の姿を確認しようと振り返りました。
道路を行き交う車の隙間から見えた女性は、ジーッと私の事を見つめていました。
目の前の信号が青になっているにも関わらず、横断歩道を渡ることはなく、さっきの場所に留まったまま反対車線の歩道にいる私を見ている。
しかも、顔だけがこちらを向いているのではないのです。
女性はその体ごと私の方に向き直していたのです。
全身に鳥肌が立ちました。
「次にこの信号が青になったら、こちらへ向かって来るかもしれない…」
そんな恐怖に駆られ、急いで走り去ろうとすると、斜め前にいたサラリーマンの男性も目を真ん丸にしてその女性の方を見ていました。
「この男性にも見えているのか?ということは幽霊ではない?というか、どちらにしても怖すぎる」
コロナ渦真っ只中だったこともあり、他人に話し掛ける事ははばかられ、私は男性に声を掛けずとにかく走ってその場から去りました。
今となってはあの女性が幽霊だったのか、それとも実在する人間だったのか、なぜ私を見つめていたのか、その真相は分かりません。
ただ、後日気になったので色々と調べてみたのですが、幽霊という存在は基本的に手に物を持つことができないと言われているそうです。物を持とうとしてもすり抜けてしまい困難なのだそう。
私が見た女性は両手にしっかりとスーパーの袋のようなものを持っていたので、ということは実在する人間だったのではないかと思っています。
でもそれならそれで、恐ろしく長い髪に白装束、あの典型的な幽霊の姿は逆に気味が悪すぎます。
それに人間だとしても、当然私にはあんな知り合いはいません。
それなのになぜ、あの女性は私の事をジッと見つめていたのでしょうか。
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