【怖い話】心霊実話|短編「反転」東京都の恐怖怪談

投稿者:トキ さん(30代/会社員/東京都在住)
体験場所:都内の印刷会社
【怖い話】心霊実話|短編「反転」東京都の恐怖怪談

これは、私が新卒で入社した都内の印刷会社で体験した話です。

そこは、オフィスと印刷機が丸ごと地下にある小さな印刷会社で、私は印刷機のオペレーションを担当していました。オペレーションといっても殆どが手動ですので、それはまるで職人のような仕事です。

『働き方改革』なんて言葉は当時はまだ存在すらせず、私は毎日夜遅くまで、土曜も隔週で出勤していました。ブラックとまでは言わなくとも、全体的に濃いグレーな会社だったと思います。

DTPのオペレーターも夜遅くまで働き、中には会社に寝泊まりする先輩もいました。

その中でも特に忙しいある先輩と、昼食を摂っていた時のことです。

「この会社は出るよ…」

突然そんなことを教えられたんです。

先輩は夜一人で残っていると、物音や人の気配がすると言います。

「…まさか」

私はそう言って笑い飛ばしましたが、どうやらその先輩以外にも、気味の悪い体験をしている人が何名かいるらしく、その中には真面目で実直な上司の名前もあり、信じ難くも自分の中で信憑性が増した気がしました。

しかし完全に信じたわけではなく、このオフィス全体が古いビルの地下にあるため、換気も十分ではなく、そういう淀んだ空気が気味の悪い気配の原因だろうと、そう思っていたんです。

アレを見てしまうまでは……。

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その日は午前中に、印刷物の『ネガ』を現像する業務がありました。

写真のネガの現像と同じで、光の少ない場所での作業になるので現像は暗室で行います。

暗室はオフィスの薄暗い廊下の先にある2畳ほどのスペースの部屋で、背後には薬液などの備品の棚があるため、実質一畳ほどの一人分のスペースしかありません。

あまり頻繁に使わないためか空気が淀んでいて、私はこの暗室があまり好きではありませんでした。

その暗室で一人、現像液に原稿を浸している時でした。
なんとなく背後から視線を感じたんです。

しかし背後には棚があり、その先は壁。人が立つスペースなんてありません。

振り返っても誰もいるはずもなく、それでも感じる視線に私は一人で薄気味悪さを覚えながら作業を続けました。

現像作業を終え、次は印刷機を使う作業に移るため、私はようやく不快な暗室を出て印刷室へ移動しました。

印刷室では先輩たちが印刷機を動かしていて、ガシャンガシャンという大きな音を部屋中に鳴り響かせていました。

その騒がしい音のおかげか、先ほどまでの気味の悪い気分も切り替わり、私は早速原稿をセットし、インクを補充、指定された印刷紙を取りに作業棚に向かいました。

この時、指定されていた印刷紙は使用頻度が低いもので、シルバーラックを使った作業棚の一番下の段に入れていました。

因みに、作業棚にシルバーラックを使っている理由は、ラックの向こう側も通路として使っているので、そちら側からも必要なものを取り出せるように、両側が抜けているシルバーラックが便利だったのです。
よくこのラック越しに、先輩たちと世間話をしたものです。

そのラックの一番下の段の紙を取るためにしゃがみ込んだ時です。

また何かの視線を感じたのです。

しかし、先ほどまでの暗室とは違い、この印刷室には忙しそうに印刷機を動かす先輩たちが複数人います。

その誰かがラックに置いてある必要なものを取りに来て私を見ているのだろうと思い、少しラック越しに会話をして気分を晴らそうと顔を上げた時です。

そこにいたのは先輩ではありませんでした。

髪の長い女。
ラック越しに、私の顔と向き合う場所にあったのは、見慣れた先輩の顔ではなく、見たこともない女の顔だったんです。

会社の女性従業員とは絶対に違います。
それは断言できます。

なぜならその女、顔も体も、全体の色が反転しているんです。
そう、まるで写真のネガのように。

余りの出来事に、今目の前にいるものから目を逸らすことも出来ず、目を見開いたまま固まっている私の顔を、反転した女の青黒い目がジッと見つめています。

ジワッと額に浮き上がった冷や汗が、一粒タラリと流れた瞬間、見開いていた私の目がようやく瞬きをしたんです。

次に目を開いた時、そこに女の姿はありませんでした。

そのまま女がいたその虚空をしばらく眺めた後、私は思わず印刷室の汚れた床に座り込みました。

見間違いだとは思えません。
見間違いにしては、女と見つめ合っていた時間はあまりに長く、その姿もハッキリとしたものでした。

おそらく先輩たちが夜残っていると感じる音や気配というのは、おそらく彼女がオフィスを見て周っていたからなのでしょう。あの、青黒い目で…

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