【怖い話】心霊実話|短編「猫道」静岡県の恐怖怪談

投稿者:みかん さん(40代/女性/主婦/静岡県在住)
体験場所:静岡県S市
【怖い話】心霊実話|短編「猫道」静岡県の恐怖怪談

私が小学生の時、夜は通ってはいけないと言われている道が近所にありました。

静岡県S市にあるその道は、街灯もない川沿いを通る道で、大通りへの抜け道として、近隣に住む知っている人だけが使うような細い道でした。

『通ってはいけない』理由を大人に聞くと、「あそこは街灯がないから夜は危ない」とか「車がスピードを出して入って来るから」と言われ、町内の子供たちは仕方なく少し離れた道を使うようにしていたのです。

そんなせいもあってか、ある頃から子供たちの間で「あの道で猫の幽霊を見た」という噂話が広がり、好奇心旺盛な子供達にとって何時しかその道は心霊スポットとして知られるようになっていたのです。

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ある秋の日のことです。

私とAちゃんはその日、学校の帰りが遅くなり一緒に家路を急いでいました。
夕方から始まる子供番組にどうしても間に合わせたかったんです。

「今日はあの道を通ろうか?あっちなら近道になるよ!」

と、焦りのせいか思わず私がそう言うと、Aちゃんも渋々ですが承諾してくれて、私たちはその日、例の川沿いの道を通って帰ることにしたのです。

その川沿いの細い道に出ると、やはり街灯が無いためとにかく暗く、時々通る車のライトに照らされて、ようやく道脇に咲くコスモスが揺れていることに気が付くといった感じでした。

川の向こうにある大きな工場からは、周囲を取り囲む高い塀を越え僅かな光が漏れ出ており、それが暗い川辺に咲く沢山のコスモスを薄っすらと照らし出し、私たちにはそれが妙に不気味に見えたんです。

その時、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきました。

「野良猫かな?」

私はAちゃんにそう言ったのですが、

「え?何が?」

と、Aちゃんには何も聞こえていなかったようで、私達はお互い不思議に思ったんです。

遠くには小さな小さな光がいくつも見えていて、

「あれも工場の灯りかな?」

と話しながら、私たちは家路を急いだんです。

そのままお互いの家の近くまで来ると、

「あの道、特になんにもなかったね。」

そう言って私たちは別れたのです。

変化はその翌日に起きました。

その日、Aちゃんが熱を出したらしく学校を休んだのです。

その後も3日間、Aちゃんは学校を休み続け、心配になった私はAちゃんの家に行ってみることにしたんです。

家に着くと、Aちゃんの母親が玄関先に出て来てこう言うのです。

「うちの子、なかなか熱が下がらなくてね。病院にも行ったんだけど、何か猫がどうとかって言いながら寝たままなのよ。」

それを聞いて私はハッとしました。
先日、私たちが通った『猫の幽霊が出る道』、もしかしたらそれが関係しているのかもしれないと思ったのです。

私は帰宅してすぐに祖母に相談しました。

「この前あの川沿いの道を通ってから友達がおかしくなったの。ばあちゃんどうしたら良い?」

すると祖母は、

「それは病院じゃなくて、神社に行くんだよ!」

と、真剣な表情で言うんです。

私は再び急いでAちゃんの家を訪れ、Aちゃんの母親にそう伝えると、すぐに町内の神社にお参りに行ったようでした。

すると、Aちゃんの熱はすぐに下がり、元通り元気になり学校に来られるようになったんです。

私はホッとして、祖母にAちゃんが元気になったことを報告すると、「良かったねぇ」と笑顔で言ってくれた後、祖母の顔は次第に暗くなり、昔、あの川で何があったのかを話してくれたんです。

祖母が幼い頃、日本はまだ戦時中で食べ物が少ない時代でした。

そんな時代でしたから、飼い猫が子を産んでもエサを与えてやる余裕もなく、仕方なく子猫を箱に閉じ込め、あの川に流していたのだそうです。

それは祖母だけに限らず他の家でもそうしており、川を下っていく箱の中から、助けを求めるような猫の鳴き声を何度も耳にしたのだと祖母は言います。

当時は川の水位量も多かったそうで、やがて箱は浸水して水が溢れ、川の浅瀬に猫の死体が幾つも流れ着いたのだそうです。

コスモスが沢山咲いていたあの川辺の辺りが、ちょうどその場所に当たるのだと聞いて、私は背筋がゾクリとしました。

そんなこともあってか、昔からあの道では『通ると猫に憑かれる』とか『ぐっしょりと濡れた猫を見る』などと言った噂話が絶えることはなかったのだそうです。

最後に祖母は、

「あんたたちが遠くに見えた沢山の小さな光っていうのは、死んでいった子猫たちがあんたたちのことを見ていたのかもしれんね」

そんなことを言って、少しにやりと笑ってました。

それ以来、私もAちゃんもあの道を通ることはなくなりました。

その川やコスモスが咲く川辺の道は、今もそこに残っています。

私にとって、あの日聞いた猫の鳴き声や無数にあった小さな光のことは、今でも時々思い出しては背筋がスッと寒くなるような、忘れられない体験です。

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