【怖い話|実話】短編「生駒山の女」心霊怪談(奈良県)

【怖い話|実話】短編「生駒山の女」心霊怪談(奈良県)
投稿者:NAMI さん(50代/女性/主婦)
体験場所:奈良県 生駒山付近

激しい雨の降る夜だった。祖母の危篤の知らせを受けた私は、奈良から実家のある大阪に向かうタクシーの中にいた。生駒山を越える最中、車の外では雷鳴がとどろき、バケツをひっくり返したような雨が降っていた。窓の外を見ると深い夜の闇が広がっていた。

「ああ、あれもこんな雨の夜だったですよ、今と同じで、生駒山をちょうど越えようとしてた」

それまで、まったく静かだったドライバーが突然話し出した。

「ちょうど、このあたりで、女の人が手を挙げていて。雨の、こんな山の中、どうやってここまで歩いてきたんだろうと不思議だったですわ。なんとなく、どこかで見たことのある女の人だなあとふと思ったんですが、そのときは何とも思わなんで車に乗せたんですわ」

突然、激しい雷音がした。目の前で空が光り、真っ二つに割れた。
運転手は構わず話を続けている。

「その女の人は、山の下まで連れていってください、と言ったので。わしがまっすぐ進もうとすると、そっちには行かないでください、左側の道を行ってください、とかすれるような声で言ったあとは、こっちから話しかけてもまったく返ってこないんです。変な人だなあと、信号で止まっている間、記録を付けるふりして、車内のライトを少しだけ点けてバックミラーをちらちら見ると、こんなすごい雨の中にいたというのに、傘も持っていないようだし、なのに濡れてる気配もなかったんですわ」

「何歳くらいの人だったんですか?」
話に引き込まれ、私は思わず聞いていた。

「20代だろうね、いっても25くらいの若い女性だったですよ。ああ、お客さん、前が見えないくらい激しい雨ですわ。ちょっとスピード落としますよって、すみませんな。お急ぎのところ」

「いえ・・・」

フロントガラスではワイパーがフル稼働しているけれど、焼け石に水だ。

「その女の人に、よく雨が降りますなあ、と言っても、この雨の日に出かけるなんて大変ですなあ、と言っても、なんにも返事がかえってこない。いい加減わしも気味が悪くなってきて、このあたりで降りられますか?と、車を止めて後ろを振り返ったんですわ。そうしたら」

大地が揺れるような轟音が鳴り響いた。すぐ近くに落雷の気配がした。

「いなかったんですよ、その女の人」

「まあ」

驚嘆の声を上げてみたが、使い古されたタクシー怪談だ。

「車をその場に止めて、後部座席を確認したら、女が座っていた場所は少し生暖かくて、確かについさっきまで人のいた気配がありましたよ。気味が悪くなって、わしは急いで引き返すために車をUターンさせたんですわ」

遠くで消防の音がする。やはりどこかに雷が落ちたのだろう。

「戻る途中で、この夜中だというのに人だかりができている場所がありましてな。はてどうしたのかと思って聞いてみると、その道の向こうで土砂崩れが起きて、車が流されたという」

徐々に、雨の降りが収まってきた。

「その道というのが、わしが行こうとして、女の人が行かないでと言った道だったんですよ。そう、わしは命拾いしたというわけです。その女の人のおかげで」

運転手がワイパーの動きをゆるめた。

「それから少ししてね、母が亡くなって、写真を整理していた時ですわ。あの時タクシーに乗せた女性とよく似た女の人が母のアルバムに出てきましてね。それが19で亡くなった母の前婚の子で、わしにとったら父違いの姉だったんすよ」

再び雨が激しくなり、真っ暗な車の中に雷の光が差した。一瞬座席の隣に視線を走らせた私はあっと声をあげた。確かに、女の姿が一瞬見えたのだ。

「お姉さんって、髪が長くて、着物を着ておられたんじゃ?」

「ああ、そうだったなあ。でもお客さん、なんでそのことを?」

女の消えた座席に手を当てると、生暖かいぬくもりがそこに残っていた。

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