体験場所:岡山県岡山市のマンション
私は昔、一時期、岡山に住んでいたことがあります。
仕事の都合で部屋を借りて暮らしていたのですが、当時住んでいたマンションで起こった不思議な出来事をお話しします。
あれは少し肌寒くなってきた冬の初めくらいの季節でした。
私が住んでいるマンションは岡山駅から自転車で2~30分ほどの場所にある閑静な住宅街でした。
近くには病院やコンビニやスーパーもあって住み心地が良かった為か、思いのほかマンションの住人は多かったです。
私の両隣の部屋には共に年の離れた男性が住んでいたのですが、生活する時間帯も違っており、あまり顔を合わせることもなく、ほとんど交流する機会はありませんでした。
ある日のことです。
私の部屋を訪ねてきた人がいました。
ピンポーンとインターフォンが来客を知らせ、最初は宅配便かと思いました。
けれども玄関を出てみると、そこにいた相手は見知らぬ20代くらいの若い女性でした。
すごくきれいな人だったことは良く覚えています。
サラッとしたロングの髪で、真っ白な品のいいコートを着ていました。
「どちら様ですか?」と尋ねると、女性は「まさやの母です」と名乗りました。
私は困り果てました。
だって『まさや』という名前に聞き覚えがなかったからです。
でも、直ぐに私はピンときました。
おそらくお隣の部屋と間違っているんじゃないかと思ったのです。
だから親切のつもりで「お隣ではないですか?」と尋ねてみました。
するとその人は、ぼんやりした様子で頭を下げ、そのまま部屋を出ていきました。
きっと、その後その人はお隣を訪ねられ、事は解決したものと私は思っていました。
それから丁度1年ほど経った頃でした。
同じようにピンポーンとインターフォンが鳴り、その時も私は宅急便かなと思ってインターフォンの画面を覗きました。
そこには、1年前に訪ねて来たあの女性が立っていたのです。
私はギョッとしました。
だって、女性は1年前に見た時と同じ格好の同じ髪型で部屋の前に立っていたのですから。
部屋の扉を開けるかどうか私は躊躇しました。
1年前とあまりにも状況が一致しすぎていて不自然に思えたからです。
居留守を使うか少しの間迷いましたが、私は意を決して部屋を出ました。
生身の本人を見て、やはり相手は1年前に訪ねて来たあの女性だと確信しました。
私は「こんにちは…」と戸惑いながら挨拶しました。
「すみません、まさやの母です」
女性は1年前と同じように再び名乗りました。
まるで初めて会ったかのような接し方が余計に不気味でした。
「部屋は、ここで合ってますか?」
と聞いてみると、相手は戸惑った様子でした。
なんとなく、そのまま放っておくこともできないので、
「お隣に聞いてみましょうか?」
と、私がその人の代わりに隣の部屋のインターフォンを鳴らしたのです。
部屋から出てきたのは、お隣の住人である若い学生でした。
寝起きのようなスウェット姿で出てきた彼を見て、
「この人がまさやさんですか?」
と、私は横にいる女性に確認しようと声をかけ、そして驚きました。
だって、今さっきまでそこにいたはずの女性が、気配もなく忽然と姿を消していたのですから。
私は思わず辺りを何度も確認しながら、呼び出してしまったお隣さんの手前、慌てふためいてしまいました。
女性の姿はやはりどこにもありません。
私は仕方なく居直り、言い訳するためにお隣さんの方を向いて、これまでチラッとしか見たことがなかったその姿を初めてマジマジと見ました。
すると、あの女性の子供というには明らかに顔は似てないし、確かにまだ若い学生ではありましたが大きすぎるように思いました。
するとお隣さんが言ったのです。
「うわ!また『まさや』!?」
私の発した『まさや』という名前に明らかに渋い顔で不快そうな反応をして、髪を掻きむしっていました。
それを見て私が呆然としていると、彼は気味悪そうな顔して話してくれたのです。
どうやら、私が住む部屋には毎年同じ日に尋ね人があるそうなのです
それが10月25日。その日のことでした。
私の前に住んでいた住人にも同じことがあったらしく、「あなたがまさやくん?」と聞かれたことがあるのだとか。
因みに、お隣さんの名前は山本篤くんといい、『まさやくん』とは間違いようがない名前でした。
その尋ね人はいつも忽然と消えてしまうらしく、幽霊だと噂されているのだと聞きました。
後に私は、マンションの管理会社の人に確認してみたのですが、『まさや』という住人は現時点の入居者どころか、これまで住んでいた住人名簿にもない名前だと言われました。
じゃあ、あの女性は一体誰を探して毎年私の部屋を訪ねるのかと考えると、何だかゾッとしてしまいました。
因みに、お隣の篤君に聞いた話ですが、どうやら私が住んでいた部屋には女性ばかりが入居してくるらしいです。
(それなら、もし男性が入居したらどうなってしまうのか…)
私はふとそんなことを想像し、ゾワゾワと寒気を感じました。
そんな事があって私は直ぐにその部屋を引越したため、あの女性に3度目に会うことはありませんでした。
今もそのマンションは残っています。
私は怖いので、その後あの部屋がどうなっているのか確認することはできません。
でも、あの女性がどうして『まさやの母』と名乗るのか、その真意だけが今もすごく気になっています。
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