
体験場所:北海道 B市・A市
今から10年ほど前の話です。
あの当時、僕たちは心霊スポットを巡るのが毎日の日課のようになっていました。
メンバーは僕を含めて3人。
A男は2つ年上の先輩、B男は1つ年下の後輩で、A男の車で行動することが多かったです。
北海道の道央エリアが主戦場の僕たちは、主な突入先も基本的には決まっていて、B市G町にある廃校になった小学校の円形校舎、それとダム。あとはA市H町の廃ホテルがメインでした。
ですが、霊感ゼロの僕たちは、何回行っても人に話せるような体験を一度も得られず、願わくば「心霊現象に遭遇したい」「なんなら幽霊が見たい」という気持ちで日々この日課に挑戦していました。
その日はたまたま、A男の彼女C子とその友達のD子も一緒に行く事になりました。
初めにA市の廃ホテルに向かっていた車中でのことです。
「D子は霊感があるんだよ」
そうC子が言い出したのですが、僕は自分が見た事しか信じないタイプなので、
(でたでた。自称霊感あります女。)
と、心の中でバカにしていました。
いざ廃ホテルに到着すると案の定、
「ここ、いっぱい居る」
と、早速D子はそう言って建物の入り口を指差しました。
「ほんとにー!!」
「マジかよー!!」
と、僕以外の三人は盛り上がっていましたが、僕だけはD子のことを全く信じられず一人冷めていて、いつもより楽しくありませんでした。
一通り建物を見終わった後、
「あっちの部屋からすごいお経を唱えている声がする」
とD子が言い出したので、みんなで見に行くことにしました。
部屋に入ると、やっぱりD子以外の僕たち四人には何も聞こえません。
「そこに座ってる!」
「そこを歩いてる!」
などとD子一人だけが騒いでいました。
しかし、車に戻ると、D子が急に大人しくなりました。
さっきまであんなに騒いでいたD子が急に大人しくなったことが、僕は幽霊より気になってしまい、
「大丈夫?」
と、声を掛けると、
「…ぅ……っ…ょ…ぇ…」
と、僕には聞こえない声でD子がブツブツと何か言っているのが分かります。
何を言っているのか全く分かりませんでしたが、僕は勝手に(大丈夫なんだな)と解釈して空返事し、みんなとの会話に戻りました。
次の目的地だったB市の廃小学校に付く頃には、既に時刻は丑三つ時(深夜2時)でした。
到着して車を降り、目的の円形校舎に向かおうとした時、D子の様子は更におかしくなっていました。
「D子どうしたの?大丈夫?」
とC子が声をかけても、D子からは薄い反応しか返ってきません。
それでも歩みを進め、ようやく円形校舎に到着して中に入ろうとした時、
「ここはもう限界!私帰る!」
と突然D子が声を上げ、来た道を走って戻り始めたんです。
「…は?」
僕たちは唖然とD子の背中を見つめていましたが、仕方がないということで、D子の後を追いかける形で車まで戻りました。
なんとなく場が白けてしまったところで、C子がD子に詰め寄りました。
「ちょっとやり過ぎじゃない?」
しかしD子は、
「本当なんだって、あんなところによく入ろうと思えるね」
と半ば逆ギレのような反応を示し、そのまま女同士の喧嘩に発展。もはや一緒に心霊スポット巡りを楽しめる雰囲気ではなくなったので、仕方なくその日はそのまま帰ることにしました。
帰りの車内はヘタな心霊スポットよりシンっと静まり返っていて居心地が悪く、B男が冗談を言っても誰も笑える雰囲気ではありませんでした。
A男は空気を読んだのか、D子の家から先に送り届けようと車を走らせていました。車内は車の走行音しか聞こえてこない最悪の雰囲気でした。
D子の家に到着し、簡単な挨拶を済ませ、D子が車を降りようとした時でした。
「…早くこの車から降りた方がいい」
僕の耳元でそれだけ囁いて、D子は家に帰って行きました。
(え?なぜそんなことを…?)
自称霊感女D子の言うことなんて全く信じてなかった僕ですが、今D子が言い残した言葉だけはなぜか気になってしまい、丁度近くに当時の彼女の家があったので、それを理由に僕もそこで車を降ろしてもらったんです。
次の日、僕は昨日のことが気になり、仕事が終わってからA男に電話をしました。
すると、電話に出たのはA男のお母さんでした。
「A男は入院してしまったの…」
受話器の向こうで悲しそうにそう話すお母さんから、もう少し詳しい理由を聞くと、A男は昨夜事故を起こしてしまったのだと言うのです。
どうやら僕が車を降りてすぐ、B男の家に向かう途中でタイヤがバーストし、スリップしながら対向車線にはみ出してしまい、丁度運悪く前方から走ってきた大型トラックと正面衝突してしまったそうなのです。
A男B男C子の容態を聞くと、奇跡的に命に別状はないとの事でしたが、A男だけは両腕に重い骨折がありHCUに入っているとの事でした。
電話を切った後、僕はD子の言った言葉を思い出し、鳥肌が立ちました。
「…早くこの車から降りた方がいい」
僕はその言葉の意味がどうしても気になり、直接D子に会いに行ったんです。
D子は既にC子から事故のあらましを聞いた後のようでした。
するとD子は僕に会うなり、
「誰も死なないで良かった」
と、涙を溢れさせて泣き崩れました。
D子が落ち着いた後で僕は聞きました。
「あの時、何が見えてたの?」
するとD子はこんなことを話し始めたんです。
「最初に行った廃ホテルはいつも通り幽霊が見えただけだった。だけどね、一つだけ違ったの。A男君の周りを肘から下だけの手がグルグル回っていたんだ。手の数は二人分以上はあった。それで車に戻る途中、さっきまでA男君の周りを飛んでいたはずの手が、今度は車の周囲を回っているのが見えて…しかもみんなが車に乗り込もうとした時、飛び回っていた手が急にピタッと止まって、一斉に手招きを始めたの。これは絶対にヤバいと思って…だからあなたに少しでも早く車から降りてって伝えたの…」
そんな荒唐無稽な話、以前の僕が聞いたなら、(はい出た。自称幽霊見えます女の戯言)と思ったかもしれません。でもその時の僕は既にD子を全面的に信じるモードです。
ただ、D子の話を聞いて一つだけ腑に落ちない事があったんです。
「どうして、みんなには言わなかったの?」
するとD子は少し申し訳なさそうにこう言ったんです。
「車の周りを飛ぶ手とはまた別の手が、あなた以外の3人の耳に突き刺さってて、それがまるで耳栓をされているみたいで………これは、話が通じないんだな、って…思ってね」
その後、三人は一応無事に退院出来ました。
ただ…A男だけは両腕に重い後遺症が残ってしまいました。
飛び回っていた腕と何か関係があるのか、正直それは分かりません。
それ以来、僕たちは心霊スポットに行くのを辞めました。
コメント