
体験場所:埼玉県 〇〇少年自然の家
これは私が小学5年生の時、林間学校で体験した出来事です。
私は埼玉県にある普通の市立小学校に通っていたのですが、5年生になると恒例行事として一泊二日の林間学校がありました。自然豊かな場所での集団生活を通し、集団訓練や生活訓練、また体力向上を目的とした行事です。
行き先は「〇〇少年自然の家」という、いわゆる学校行事や合宿等で使われる施設でした。
昼は飯盒炊飯やオリエンテーリング、夜はキャンプファイヤーなどの野外活動が行われ、自然の中でみんなと過ごす時間は夢のように楽しかったことを覚えています。
初日のイベントを全て終えて、各自部屋に戻りました。
部屋はドミトリーのような造りになっていて、左右の壁にそれぞれ二段ベッドが設置され、奥には2,3畳ほどの小上がりがあり、布団を敷いて一人寝られるぐらいのスペースがありました。
私の班は5人。私以外のみんなが二段ベッドを希望したので、特にこだわりのなかった私が小上がりに布団を敷いて寝ることにしました。
そして、いざ就寝時間を迎えましたが、すぐに眠る子は誰一人いません。クラスの友達と同じ部屋で過ごす夜は、私たちにとっては非日常で、興奮して直ぐになんて眠れるはずもありませんでした。
暗い部屋でひそひそと、みんなで普段話さないようなことも色々話したりして、やっぱりこの時間が一番楽しかったですね。だんだん盛り上がって声のトーンが上がってくると、先生が来て注意されて、それがまた楽しかったりするんですよね。
そうこうしている内に夜も更けてきて、一人、また一人と眠り始めた頃、当時一番仲の良かったミホちゃんという子が私に声を掛けてきました。
「ねえ。一人でそっちに寝るの寂しそうだから、こっちで一緒に寝ない?」
そう言われて私も嬉しくて、そそくさと枕を持って、みほちゃんのいる二段ベッドの一段目に転がり込みました。
しばらくの間、二人並んでうつ伏せで、肘を立てた姿勢で話をしていたのですが、少しすると、
「なんか隣の部屋の話し声が聞こえる~」
と、向かいのベッドの一段目にいたリクちゃんが、壁に耳を押し当て言いました。
「誰だろうね~」
なんて、私は他愛ない返事をして、リクちゃんを見た時、息を飲みました。
壁に耳を当てているリクちゃんのすぐ後ろ――その頭のすぐ上に、ぼんやりと人影が見えたんです。
長い髪に白い帽子をかぶった女性の人影。
それがまるでリクちゃんの後頭部を覆うように、ぴたりと寄り添って浮いてるんです。
「みほちゃん…ねえ、なんかさ、リクちゃんの後ろに人いない?白い帽子かぶった女の人……」
私がそう囁くと、ミホちゃんもジッとリクちゃんを見つめてから、ぽつりと言いました。
「いるねぇ。看護婦さんかな~?」
なんて、とぼけた答えが返ってきます。
ああ、やっぱり同じものが見えてるんだ~と思った私も、
「町田先生かな~?髪長いし~」
なんて、おかしなことを言います。
町田先生とは私たちの学校の保健室の先生です。
「町田先生がいるわけないでしょ~」
と、みほちゃんからゆるく突っ込まれ、
「ああ~そうだよねぇ~」
なんて、今思えば二人とも、目の前に“ありえないもの”を見ていながら、どうも間の抜けたおかしな会話をしていたと思います。日常とは違う、林間学校の夜がそうさせたのか、私たちは特に怖いと感じることもなく、その妙なやり取りを繰り返しながら、何時の間にか眠っていました。
翌日の朝のことです。
「ねぇ、昨日の夜のこと覚えてる?うちら、看護婦さんがいるとかなんとか話してたの…」
起きて早々、隣にいるみほちゃんがそう話し掛けてきました。
「うん?何となくね…」
寝起きに話し掛けられた私は、頭を整理する暇もないまま、ぼんやりと答えました。
「よく考えたらさ、私たちおかしなこと話してない?町田先生だとかなんとか…そんなわけないのに…」
「うん?あっ!そういえば、確かに…」
まるで夢の記憶のように、昨夜の映像がぼんやりと頭に蘇ってきます。でも、みほちゃんも覚えているのだから、やはり夢ではなさそう。
そう思って、まだ眠っているリクちゃんの方を見ながら、
「でもさ、もし夢じゃないとしたら……あの女の人って、誰だったの?」
そう口にした瞬間、夜にはなかった冷たい感覚が背筋を駆け上がりました。
朝の光の中でようやく、あの体験の異様さを理解したのです。
林間学校の夜に見た、まるで夢みたいにふわふわした怪現象の記憶。
後にも先にも、これまでの人生で私が見た『幽霊らしきもの』は唯一これだけです。
それなのに、どうも間の抜けた反応のまま寝落ちしてしまった後悔。折角ならもっと怖がっておきたかったな、と、今となっては少しもったいない気がしています。
ちなみに、背後に女性の影が浮かんでいたリクちゃんですが、少なくとも小学生の間は特に何事もなく、無事に卒業していきました。
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