【怖い話|実話】短編「真夜中の露天風呂」心霊怪談(宮城県)

家族で温泉旅行
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投稿者:献血マニア さん(45歳/男性/看護師)
体験場所:宮城県S市S温泉郷の某旅館

これは5年前の7月頃、家族旅行での出来事です。
妻と15歳の長女、10歳の次女、5歳の長男と5人で旅行に行った時の話です。

毎年1回は家族で旅行をしているのですが、その年は日本屈指の宮城県の温泉郷、S温泉で露天風呂をゆっくり楽しもうということになりました。

宿泊に選んだ温泉旅館は有名な老舗旅館でした。
昔から多くの著名人にも人気の旅館で、何度も足を運ぶ方も多かったそうです。
とても大きくハイクラスに属する旅館と思われ、スタッフのみなさんもとても礼儀正しく、来て早々、家族みんなでとても喜んでいました。

ここの旅館の温泉は、源泉が複数あり、室内・露天どこの浴槽も源泉かけ流しです。
しかも露天風呂は200年あまり前から続く人気のお風呂とのこと。

昼に息子と露天風呂に向かうと、途中から木の階段を下りていくことになりますが、かなり長い階段で、途中には休憩場所が設けられているほどです。
4人ぐらい並んで降りることができる趣ある木の階段の通路で、片方の壁には窓があり、窓の外を見ると渓流に向かってどんどん降りているのが良く分かります。
窓から見える木々や渓流も美しく、とても心地良く子供と廊下を下っていきました。

露天風呂には浴槽が5つほどあり、どれも5人ほど浸かれるサイズの岩風呂となっていました。
実際に浸かってみると、すぐ隣は渓流が流れており、とても安らげる気持ちいいお風呂で、子供もとても満足していました。

家族で一日楽しく過ごし、子供たちは早々に就寝。
夫婦で軽くお酒を飲みながら、そのまま二人とも気持ちよく布団に入りました。

深夜1時頃、私はなんとなく目が覚めてしまいました。
目が覚めた途端にふと思ったのです。

「深夜の露天風呂はどんな感じなのだろうか?」

夜だと雰囲気なども違って、また違う楽しみがあるのではないかと、そそくさと準備をし、いそいそと部屋を後にします。

近代的な大きな旅館ですが、夜の露天風呂に向かう階段は淡い光で照らされ、木造の柱や壁や階段がとても良い雰囲気です。
窓の外もライトアップされ、新緑がとても美しく見えます。
まるで、何十年も昔にタイムスリップした、そんな感じです。

脱衣所に着くと、こんな時間ですから誰の衣服もありませんでした。

5つの岩風呂がある広い露天風呂を一人でゆっくりと堪能します。独り占めの露天風呂はとても気持ち良く、鼻歌まで出る始末です。
渓流も淡い光でライトアップされており、ヤマメが泳いでいる姿も見ることができました。

しばらく渓流を眺めながら岩風呂に浸かっていると、脱衣所から私の背後を通り奥の岩風呂へ向かって行く足音が聞こえてきました。

自分と同じ考えの人もいるのだと思いながら、ふとそちらを見ると、初老の男性がこちらに背を向ける形で奥の岩風呂に浸かっています。

風呂につかる初老の男性
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せっかくの独り占め状態の露天風呂でしたが、しょうがないと、それほど気にせず温泉を楽しみながら渓流を眺めていると、恐らくその初老の男性が湯から上がり、体を流している音が背後から聞こえてきました。

(ああ、体を洗っているんだなぁ)と思っていると、その後、全く音がしなくなりました。
出ていく音も、再び湯につかる音も聞こえません。

何かおかしい。
いくら7月とは言え、夜中に湯にも浸からず、裸でずっと外にいると寒くて震えるほどのはず。
それなのに、体を流した音の後、ひとつも音がしないのです。

ちょっと怖くなってゆっくりと振り返ると、体を洗った形跡も、それを流した形跡も何もありません。
足跡すらありません。

奥の岩風呂を見ると…
初老の男性はまだ湯に浸かっていました。
それも始めに見た状態と全く同じ姿勢です。

(あれ?体を洗ってると思ったのは自分の勘違いか?)
そう思いながらも、本人にはとても失礼なのですが、私はその初老の男性に興味が湧いてきて、少しばかり観察してみました。

すると、やっぱりおかしいのです。
観察しはじめてから一切の間、その初老の男性はピクリとも動かないのです。
まるで人形の様に。
私の頭の中はクエスチョンマークがいっぱいです。

妙な不安の中、色々考えていると、また一人、露天風呂に入ってくる足音が聞こえてきました。
私は怪しい人に思われたくないので、すぐにまた渓流の方を向きなおし、初老の男性や新参客に背中を向ける形となりました。

背中を歩いていく足音に耳を澄ましていると、どうやら誰も入浴していない岩風呂に浸かった様子です。

三人目の露天風呂客
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しばらく3人とも無言で過ごします。

…どれくらい経ったのでしょうか。
観察していたヤマメもいなくなり、十分露天風呂を堪能したので湯舟から上がり、周りを見渡すと・・・

「あれ?」

一緒に露天風呂を堪能していた二人がいません。
湯舟から上がる音もしなければ足音もしなかったし、足跡すらもありません。

誰もいない露天風呂
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まるで初めから最後まで、露天風呂には私一人だけだったかのように、そこには他に客がいた形跡が何もないんです。

あの2人はどこへ消えたのか…いったい私は誰と一緒に露天風呂に浸かっていたのでしょうか?
結局、何も分からないまま、私は狐につままれたような釈然としない気持ちで露天風呂を後にしました。

普通であれば少々ゾッとする体験ですが、私は仕事上不思議な体験を何度かしているためか、そんなに怖いと感じることはありませんでした。
むしろ、後になって思うと、もしかしたら東日本大震災で亡くなられた方などが、もう一度この素晴らしい露天風呂に浸かりに来たのかな?そんな風に感じた出来事でした。

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