【怖い話|実話】短編「深夜の訪問者」心霊怪談(埼玉県)

【怖い話】心霊実話|短編「深夜の訪問者」埼玉県の恐怖怪談
投稿者:はしもと さん(30代/女性/無職)
体験場所:埼玉県H市 某介護施設

私は以前、埼玉県H市にある介護施設で働いていました。
20年以上生きてきて「自分には霊感なんてない」と信じていたのですが、この施設に勤めてから、その思いは揺らぎました。いや、幽霊という存在を認めざるを得なくなったのです。

誰もいないはうの廊下に車椅子の軋む音が響いたり、複数の入居者様が同じ日に口を揃えて「赤いちゃんちゃんこを着た女の子が立っている」と訴えたり。自分の目で見たわけではないけれど、ただの思い込みでは片づけられない出来事が次々と起こるのです。

今回は、その中でも特に忘れられない体験をお話しします。

その日は夜勤だったので夕方から勤務に入りました。
夕食が終わると日勤スタッフは帰宅し、夜勤は私ともう一人、Aさんの二人だけになります。

いつも通りに業務を行いひと段落した頃、夜勤は1時間に一回施設内の見回りをするのですが、見回りに行っていたAさんが紙のように青ざめた顔をして事務所に戻ってきました。

「なんか、205号室の中から物音がするんだけど…」

けれど、その部屋の入居者の方は数日前から病院に移り、今は不在のはず。鍵も掛かっているので中には誰もいないはずです。

「…そんなわけなくない?」

口ではそう言いながらも、私の胸の奥は冷たくなっていきました。

部屋の鍵を持ち、2人で恐る恐る205号室へ向かいました。
ですが、部屋に近付いても中から物音は聞こえません。

「おかしいなぁ。さっきはガタガタ音がしてたんだけどなぁ…」

Aさんは息を潜めて不安そうに言いました。

私たちは呼吸を整え、部屋の鍵を開けて直ぐに中の電気を点けました。
部屋の中は綺麗に整えられたままで、人の気配など一切ありませんでした。

なんとなくモヤモヤは残りましたが、とりあえず私たちは事務所に戻り、通常業務を再開しました。

その深夜2時を過ぎた頃。
Aさんは仮眠をとっており、私一人で事務作業をしている時でした。

突然ナースコールが鳴りました。

反射的にコールランプに目を向けると、鳴っているのは205号室。先ほど誰もいないことを確認した居室です。

私の心臓はバクバクと音を立て、冷たい汗が背中を伝います。
なかなか受話器を取る勇気が出ず、その場でただ立ち尽くしていると、コールが鳴り続けているのを聞いて仮眠中だったAさんが出てきてくれました。

「どうした?」
「205号室から、ナースコールが…」

言葉は途切れ、二人で顔を見合わせました。

恐怖を押し殺し受話器を取ると、電話口に声を掛けましたが、返ってくるのはノイズのような沈黙だけ。そのまま放っておくわけにもいかず、仕方なく二人で恐る恐る、再び205号室を確認に行きましたが、やはり中には誰もいませんでした。

コールボタンはベッド脇にかけられたまま浮いている状態で、鍵の掛かった密室の中に風が吹くわけもないので、間違えてどこかに接触して鳴ったなんてことも有り得ません。

結局その夜は怖くて仮眠も出来ず、私たちはずっと2人でいて、見回りも一緒に行いました。

やがて夜が明け、辺りに陽ざしがが差し込んできだ頃、ようやく私たちも一息付けて、また忙しなくバタバタと朝の業務をこなしました。

ようやく仕事を終えて帰り支度をしている時でした。
出勤して来た施設長が、日勤スタッフに指示を出しているのが聞こえてきました。

「誰か205号室の荷物をまめておいて」

その一言に、胸がざわつきました。
私とAさんは嫌な予感がして、恐る恐る施設長に詳しい事情を尋ねると、昨晩205号室の入居者様が亡くなったと、22時ころ病院から連絡があったそうなのです。ちょうどAさんが205号室で物音を聞いた時刻です。

私とAさんは顔を見合わせ絶句しました。

昨夜の出来事を日勤スタッフのみんなに話すと、すると先輩たちに驚く様子は殆ど無く、

「あー、〇〇さん戻ってたんだぁ」

そう言って、まるで日常の一コマのように笑っていました。

こういうことはよくあるそうです。
どうやらその施設では、亡くなった入居者様が自分の部屋に帰ってくることは、珍しくないのだと…

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