【怖い話】心霊実話｜短編「深夜の訪問者」埼玉県の恐怖怪談

私は以前、埼玉県Ｈ市にある某介護施設で働いていました。
２０年以上生きてきて霊感なんて皆無だと思っていた私ですが、施設に勤め始めてからは幽霊はいるんだと納得せざるを得ない経験をいくつもしました。

誰もいない廊下から車椅子を動かす音がしたり、同じ日に複数の入居者様から「赤いちゃんちゃんこを着た女の子が立っている」と訴えられるなど、実際に私自身が何かを目にしたわけではなのですが、なんとなくそういった存在を感じる出来後が何度もありました。

今回はそんな体験の中の一つをお話したいと思います。

その日は夜勤だったので夕方から勤務に入りました。
夕食が終わると日勤のスタッフは帰り、夜勤は私を含めてスタッフは2人体制となります。

いつも通りに業務を行いひと段落した頃、夜勤では1時間に一回施設内の見回りをするのですが、見回りに行っていたもう一人の夜勤スタッフＡさんが青白い顔をして事務所に戻ってきました。

「なんか、205号室の中から物音がするんだけど…」

205号室の入居者の方は先日から病院に移り現在入院中であり、ドアには鍵も掛かっているので中には誰もいないはずです。

「…そんなわけなくない？」

私はそんな風に言いつつも、内心とても怯えていました。

居室の鍵を持ち、2人で205号室へ向かいました。
ですが、居室に近付いても中から音は聞こえてきません。

「おかしいなぁ。さっきはガタガタ音がしてたんだけどなぁ…」

Ａさんは息を殺すようにそう言って不安そうにしていました。

私たちは呼吸を整えた後、居室の鍵を開けて直ぐに中の電気を点けました。
すると、やはりそこには誰もおらず、部屋の中は綺麗に整えられたままでした。

なんとなくモヤモヤは残りましたが、とりあえず事務所に戻り通常業務へと戻りました。

その深夜2時過ぎのこと。
Ａさんは仮眠をとっており、私が一人事務所で作業をしている時でした。

突然ナースコールが鳴りました。

反射的にコールランプに目を向けると、鳴っているのは205号室。先ほど誰もいないことを確認した居室です。

私の心臓はバクバクと音を立て冷や汗が出てきました。
なかなかコールを取る勇気が出ず、その場で立ち竦んでしまいました。

何度かコールが鳴ってるのを聞いて仮眠中だったＡさんが出てきてくれました。

「どうした？」
「205号室から、ナースコールが…」

2人とも言葉を失いました。

一呼吸おいて、勇気を出して受話器を取り、電話口に声を掛けましたが返事はありませんでした。
受話器をおろし、二人で再度205号室を確認しに行きましたが、やはり中には誰もいませんでした。

コールボタンはベッド脇にかけられたまま浮いている状態で、鍵の掛かった密室の中に風が吹くわけもないので間違えてどこかに接触して鳴ってしまうことなんて有り得ません。

結局その夜は怖くて仮眠も出来ず、私たちはずっと2人でいて、見回り等も一緒に行いました。

夜が明け辺りが明るくなった頃、ようやく私たちもホッとして、昨晩あったことなど忘れてバタバタと忙しく仕事をこなしていました。

仕事を終え帰り支度をしている時でした。
丁度そのころ出勤して来た施設長が、日勤スタッフに指示を出しているのが聞こえてきました。

「誰か205号室の荷物をまめておいて。」

私とＡさんは嫌な予感がして、恐る恐る詳しい話を施設長に聞いてみると、昨晩205号室の入居者様が亡くなったと、22時ころ病院から連絡があったそうなのです。

私とＡさんは顔を見合わせ驚いた後、昨晩あったことを日勤スタッフのみんなに話しました。

すると、先輩たちに驚く様子は殆ど無く、

「あー、〇〇さん来てたんだぁ。」

そう言って笑っていました。

こういうことはよくあるそうです。
きっと亡くなった入居者様が部屋に帰ってくることは珍しくないのだと思います。