体験場所:鹿児島県鹿屋市
私が10歳くらいの時に体験した出来事です。
20年以上前の話になりますが今でも鮮明に覚えています。
鹿児島県鹿屋市の田舎町に父方の実家があり、毎年お盆や正月には家族で帰省していました。
実家の周囲には人の住む家が2,3軒程しかなく、他は空き家ばかり。一番近い自動販売機へ行くのにも車で10分というかなりの田舎。まんま、アニメとなりのト〇ロのような集落です。
その年の夏も例年通りたくさんの親せきが実家に集まりました。
女性陣は食事の支度等でせわしなく動いていましたが、なんにもない田舎ですし、今のようにゲーム等もあまりなかったので、私も含め子供たちはみんな暇を持て余していました。
その様子を見かねてか、親戚のおじさんが「虫取り網を作って虫取りに行こう」と子供たちを連れ出してくれたのです。
一緒に虫取りに出かけたのは、その親戚のおじさんと、おじさんの娘が2人、それと2歳下の私の弟と私の5人です。
まずは虫取り網を作ろうとなりました。
実家の敷地はかなり広く、家の隣には家と同じくらいの広さの畑があり、家の正面には昔鶏などの家畜を飼っていた倉庫のような木造建物があるのですが、その建物の裏に大きな竹林が広がっていました。
そこの竹を切って虫取り網を作ろうとなったのですが、なんだかその竹林はどんよりと薄暗く、私たち子供には怖くて近寄ることができませんでした。
するとおじさんはスタスタと一人で竹林に入り竹を切って来たかと思うと、慣れた手つきでいとも簡単に虫取り網を作ってくれました。
その日はそれを使って蝉取りをして、夕方まで楽しく過ごすことができました。
夜は宴会でおいしいものを食べ、花火をし、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。
寝る時間を迎える頃になると、親戚はみんな帰ってしまい、家には私たち家族と祖母のみになりました。
布団に入り眠ろうと目をつぶりましたが、その日はなかなか寝付けませんでした。
何度も寝返りを打っては(今何時だろう…)と考えていました。
しばらくそうしていると、竹林のある方角から「コン、コン」と杖をつくような音が聞こえてきました。
竹林の中には道が通っていて少し離れた場所へ抜けられるようになっていたため、どこかのご老人が夜の散歩でもしているのかなと思いました。
ですが、そのまま通り過ぎるだろうと思っていた杖の音は、なぜかだんだんとこちらに近付いてくるようで、そのまま祖母の家の敷地に入って来たようでした。
そのまま音は玄関の前まで来ると、そこで「コン、コン、コン」と杖を鳴らし続けている様子。
私が寝ている部屋から玄関は障子が一枚隔てていたので、直接様子は見えません。
なのに、なぜか私にはその音の主が着物を着たお爺さんだと直感的に分かってしまったのです。
そのとたん急に怖くなりました。
堪らず両隣に寝ている家族を起こそうと思いましたが、なぜか体が動かせず声も出せません。
これは何かまずい事になったと怯えていると、杖の音はしばらく玄関で鳴った後、また同じペースでゆっくりと竹林の方へ帰って行ったようでした。
よかったと安堵し緊張が解けると、私は気絶するように眠りに落ちました。
翌朝、普通に起きたのですが、昨夜の体験を誰かに話すとよくないことが起こりそう、なぜかそんな気がして、以降も結局誰にも話すことないまま帰宅の日を迎えました。
帰りの車のトランクに祖母の畑で取れた野菜を詰め込んでいると、弟が竹で作った虫取り網も自宅へ持ち帰ると言い出しました。でも、結局長さの問題で車に載せることができず、祖母宅にそのまま置いて帰ることになりました。弟が絶対に捨てないでよと祖母に念を押している姿を見て、何故かほっとしている自分がいました。
それから数年が経ち、あの夜の出来事を初めて家族に話した時がありました。
すると、話していて私は自分でおかしな点に気が付いたのです。
冒頭でも書きましたが、祖母の家があるのはアニメとなりのト〇ロなような田舎町。アニメに描かれている歩道(道)が現在のようなコンクリート道路ではなく土の道なのと同じように、祖母宅の周りの道も、竹林から続く道も全て土の道なのです。
玄関前のたたきだけはかろうじてコンクリートが敷かれていましたが、他はすべて土の道。
つまり、「コン、コン」と杖の音が鳴るはずがないのです。
しかしあの夜、私は確かに「コン、コン」と硬い道を叩きながら近づいてくる杖の音を聞いたはず。
こうして、数年越しに私の体験は更にゾッとするものになってしまいました。
これはまた後に父から聞いた話ですが、今では竹林となっている祖母宅の隣には、かつて一軒の家があり、そこにはあるご夫婦が住んでいたそうなのです。
ですが、父が小学生の時、その家の奥様が鉈か斧かで旦那様を殺めてしまったのだそうです。(警察にお願いされ一時的にご遺体は祖母宅の庭に置かれていたとか…)
その後、隣家は住む者が誰もいないまま取り壊されもせず自然と朽ち果て、やがて現在の竹林となったそうなのです。ただ、今でも石でできた門だけは残っています。
そんな出来事があって以来、父は実家の縁側で昼寝をすると金縛りに遭うようになったと言っていました。
もしかすると、あの竹林には亡くなった隣家のご主人が今も居て、竹林の竹を勝手に取るなと注意をするために私の元に現れたのかもしれません。
ちなみに、竹で作った虫取り網はというと、次の年に祖母宅へ行った時には無くなっており、祖母もどこにいったのか分からないと言っていました。
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