【怖い話|実話】短編「焼けた位牌」心霊怪談(東京都)

【怖い話】実話怪談|短編「焼けた位牌」心霊体験談(東京都)
投稿者:なお さん(37歳/女性/フリーター)
体験場所:東京都八王子市下恩方町の空き家

私が小学5年生の頃に体験した話です。

私の伯母は八王子の下恩方町に嫁いでおり、当時は私も親に連れられ度々そこへ遊びに行っていました。
伯母の元に通い続ける内に、近所に住む同年代の女の子2人、A子とB子と仲良くなり、3人で竹藪を探検したり裏山に登ったりと楽しい日々を過ごしました。

その年も夏休みに突入して、また伯母の家に滞在し始めて間もない日のことでした。
リーダー格のA子が肝試しを提案してきたのです。

なんでもこの近くに中年の夫婦が夜逃げしたまま数年が経過している不気味な廃墟があると言うのです。

正直な所、私は怖いものが苦手だったのですが、2人に弱虫だと思われるのが嫌で渋々同行することにしました。

「ここが奥井さん(仮)ちだよ、なおちゃん(私)」

先頭に立ったA子が指さす先には、屋根瓦から所々雑草が生え、見る限り全ての窓が割れた廃墟がひっそりとたたずんでいました。

まず一目見て『暗い』以外の印象が浮かばない、なんとも奇妙な家でした。

別段日陰に建っているわけでもありませんし、私達が訪れたのは土曜の昼、しかも炎天下の夏空です。
そんな環境にも関わらず、なぜかその家だけが、周囲と切り離され湿っぽく異質な闇を纏っていました。

庭には錆びた三輪車やタイヤ、破れて綿がはみ出た布団や毛布が乱雑に積み上げられ、粗大ゴミ置き場と間違えてしまいそうです。

「もしかして、怖いの?なおちゃん?」

背後のB子に意地悪にそう囁かれ、

「そ、そんなことないよ。蚊がいっぱいだからさっさと入ろ」

そう言って私は目一杯に虚勢を張り、A子に続いて足早に塀の内側に入りました。

玄関の引き戸は壊れており、そこからA子・私・B子の順に一列に並んで探索を始めます。

(やっぱり暗い…それに臭い。なんだろこの匂い…)

玄関の右手は居間、左手は仏間になっており、奥に台所があるようですが、中はとても散らかっていて足の踏み場がありません。

奥へ進むほどに得体の知れない胸騒ぎが膨れ上がり、もうだめだ、やっぱり引き返そうと決め、口を開きかけた矢先、急に立ち止まったA子が緊張した声色で言いました。

「あれ見て…コンロの上…」

A子とB子が固唾を呑んで凝視する先に、私も恐る恐る向き直ると、コンロに覆い被さるように置いてあったその長方形の板を見て、私は自分の目を疑いました。

それは、普通だったら仏壇に飾られているはずの位牌、それが焼かれたものでした。

その表面はコンロの高温の火で炙られたのでしょうか。真っ黒に焦げ戒名も判別できません。

「なんで…こんな罰当たりな……」

私が非難の言葉を口にすると、A子とB子も気味悪そうに眉を潜め、コンロの上の位牌を遠巻きにするようにしてしばらく見つめていました。

突然日が陰るのを感じた時でした。
埃っぽい台所の奥に不意に人影が見えました。

「えっ?誰…?」

思わず上擦った声を上げる私を他所に、A子とB子には何も見えていないのか、私の顔とその視線の先を交互に見つめ、ただひたすら不思議そうにしています。

しかし私には台所の片隅に確かに人影が見えています。目を凝らすと、そこには高齢の老婆が立っていて、しかもその顔と体は惨たらしく焼け爛れていたのです。

「きゃああああっ!」

焼け爛れて白濁した老婆の目がこちらを向いた瞬間、私は理性の糸が切れ、悲鳴を上げて家を飛び出し、A子とB子はわけも分からずそれに続きました。

廃墟から脱出して、どうにか呼吸を整えている私に、A子とB子が口々に「脅かさないでよ」と抗議してきました。
彼女たちは私が悪ふざけで悲鳴を上げたと誤解しています。

反論しようと振り返った拍子、私が再び目撃したのは、廃墟の台所に面した窓の破れ目から、一筋の白い煙が吐き出され、それが空へと吸い込まれていく光景でした。

積乱雲が湧く夏空へ溶ける寸前、その白い煙が歪んで無念そうな老婆の形相を浮かべたのは、幻覚だったのかどうか…

後日、伯母に廃墟での体験を話したところ、思いがけない話を聞きました。

「奥井さんちのお姑さんとお嫁さんはとても仲が悪くてね……夜逃げした時にはもうお姑さんは亡くなってたんだけど、もしかしたらお嫁さんが夜逃げ前に、散々いびりぬかれた復讐に位牌を燃やして行ったのかしら…」

私が廃墟の台所で見たものは、お嫁さんに位牌を燃やされた恨みで化けて出た、お姑さんの幽霊だったのかもしれません。

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