体験場所:沖縄県那覇市の某小学校
私が小学校5年生の時の話です。
当時、私が通っていた沖縄県那覇市のその小学校では、学校の七不思議やこっくりさんなど、怖い話やオカルト的なものが流行っていました。
こっくりさんは怖かったので、誘われても断っていた私ですが、学校の七不思議には興味がありました。
それと言うのも、学校の七不思議が流行っていたその頃、色んな友達からその内容を聞く機会があったのですが、そのどれもが微妙に違っていて、正確に七つではなかったからです。
例えばAちゃんから聞く七不思議とBちゃんから聞く七不思議では、五つは同じで二つは違っていたり、Cちゃんから聞く七不思議とDちゃんから聞く七不思議では、似てはいても微妙に内容が違っていたりするんです。
全く同様の内容の七不思議を語る友人は一組もいなくて、一体どれが本当なのか日増しに気になっていったのです。
そんなある日の放課後、私と友達のMちゃんは担任の先生の手伝いをすることになり帰りが遅くなってしまいました。
遅いと言っても夕方の6時前頃でしたが、秋も終わりが近付いていたその日の空は、どんよりと曇り、既に外は薄暗くなっていました。
そんな時、私は一つ思い付いたんです。
このタイミングだからこそ検証できる七不思議が一つだけあることを。
それは、夕暮れ過ぎて辺りが暗くなる頃、校庭にある用具置き場と呼ばれる小さな倉庫のところに、しゃがみ込んで泣いている古ぼけた服を着た男の子が現れるというものでした。
「絶対に話しかけちゃいけないよ!話しかけたら連れて行かれちゃうんだよ!」
そう言ってAちゃんが、鬼気迫る表情で教えてくれた七不思議の一つでした。
普段ならまだサッカーとかしている男子がいてもおかしくない時間でしたが、その日はどんよりとした悪天候のせいか、既に誰もいなくなった校庭には静けさが広がり、ロケーションはバッチリです。
それに、時間としてはまだ少し早いかもしれませんが、それでも既に薄暗くなった外を見ると、もしかしたらその少年がもう『出てる』んじゃないかなと思えたのです。
とは言え、1人で確認に行くのはあまりにも怖かったので、一緒に残っていたMちゃんを誘ってみたんです。
すると、やっぱりオカルトブームだったからでしょうか、Mちゃんも興味津々で即決で一緒に行くと言ってくれたのです。
すぐに私たちは帰り支度をして、ランドセルを背負い意気揚々と校庭の用具置き場に向かいました。
最初こそ2人ともはしゃいで歩き出しましたが、目的の場所が近付くにつれ徐々に緊張してきたのか、気付くと私たちは一言も声を発さないまま件の用具置き場に着きました。
噂のせいか、普通の倉庫である用具置き場も、薄暗い空の下で改めて見ると妙に不気味に見えてきます。
一瞬ブルッと寒気がしましたが、それでもまずは用具置き場の周りを、2人で一回りしてみることにしたんです。
ズズッと地面をこするように慎重な足取りで歩き始めました。
用具置き場の角を曲がる度にヒヤッとしながらも、辺りに気を配り、何かいないか凝視しながら進みます。
ですが結局、一周しても誰の姿も確認できませんでした。
少しホッとしたものの、やっぱりちょっと残念で、一応用具置き場の中も覗いてから帰ることにしました。
どこか中を覗けそうな隙間はないかと、再び二人して用具置き場の周りをグルグル回っていると、突然中から、
『ドン!』
と、壁を叩くような音が聞こえてきたんです。
「え?・・・今の何?」
「し…知らないよ…私じゃない…」
「嘘だよ!」
そんな風に私達が言い合っていると、また中から、今度は2回、
『ドンドン!』
と、誰かが用具置き場の中から入り口を叩いているような音がするんです。
私たちはその入り口から目が離なせず、そのまま固まっていると、
『ドォォォォン!』
と、今度は入口に体当たりをするかのような大きな音がしました。
その瞬間、心臓がギュッと握られたかのように私たちが立ち竦むと、今度は間髪入れずに、
『ドンドンドンドンドンドンドンドン』
と、明らかに手の平で、狂ったように扉を叩きまくる音が止まる事なく続いたんです。
私はもう動くにも動けず、しゃがみ込むことも出来ず、ただその場で涙目になって震えていました。
次の瞬間、
「ヒッ!」
とMちゃんが息を飲むような悲鳴を上げると、私の手を引いて走り出したんです。
そこから校門を出るまで私たちは息もつかずに必死に走り続けました。
校門を抜け少し先まで走ったところで私の足がもつれてしまい、そのままそこで私たちは立ち止まったんです。
膝に手を置き、ハーハーと声も出せずに、その場でただただ肩で息をしていました。
ようやく多少落ち着いてきたところで、ふとMちゃんを見ると、苦しそうに息をしながらも、ガタガタと震えているんです。
「あれ・・・見えた・・・?」
声まで震えているMちゃんの問いかけに、
「え?なにが・・・?」
用具置き場から発せられる音にただただ固まっているだけだった私がそう答えると、Mちゃんはこんなことを話し始めました。
『ドンドンドンドン』と音が響き渡っている時、Mちゃんは上から視線を感じ、反射的に見上げたのだそうです。
すると、その屋根の上に、嫌な感じのおじさんが座っていてこちらを見下ろしていたのだそうです。
どう嫌な感じなのか、Mちゃんは言葉では説明しずらいと言います。
それと目が合った瞬間、Mちゃんは私の手を引いて走り出したのだと…
「普通の人間にも見えたけど…とにかく嫌な感じがして…それにあんな状況…普通じゃないでしょ…」
Mちゃんはそう言ったまま、また黙り込んで、しばらく震えながら呼吸を繰り返していました。
確かにあの状況は異常でした。
でも、もしかしたら、Mちゃんが見たと言うおじさんも、用具置き場の中から壁を叩いていた何かも、普通の人間だったのかもしれない。
誤って中に閉じ込められてしまった誰かだったのかも…
ただ、絶対にあの状況は異常だったし、何かが違っていました。
それでも、もしかしたら私たちは、誰かを見捨てて逃げてきてしまったのかもしれない。
そんな風にも考えられて、私達はこの話を他言無用ということにして、黙っていることにしました。
今思い返しても、あれが人の仕業だったのか、それとも、聞いていた七不思議とは違いましたが、やはりそういった類の現象だったのか、正直全く分かりません。
それから卒業するまでの間も、七不思議の話を誰かから聞くことは何度もありましたが、私とMちゃんが体験したような話が出てくることはありませんでした。
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