【怖い話|実話】短編「山で見るもの」不思議怪談(鳥取県)

【怖い話】不思議実話|短編「山で見るもの」鳥取県の恐怖怪談
投稿者:小町 さん(40代/女性/ライター)
体験場所:鳥取県西伯郡

大学生の頃、同じゼミの友人たちと、鳥取県のとある小学校のキャンプにボランティアスタッフとして同行することがありました。

山の中のキャンプ場は涼しく快適で、登山をしたりカレーを作ったりと、久しぶりに味わう自然とキャンプを子供たちと一緒に満喫していました。

2日目の朝のスタッフミーティングでのこと。

「今日の夜はキャンプの定番、肝試しをしよう!」

という話になり、私たち学生ボランティアもキャンプ場の指導員さんたちも大盛り上がり、早速コースを決めて、お化けの仕込みを始めたんです。

私と男性指導員のAさんは、肝試しのスタート前に子供たちに怪談話を聞かせる役回りとなり、話のネタを考えたり、音響の準備などをしていました。

ふとAさんを見ると、周囲の盛り上がりに反して、何故か浮かない表情をしていました。
もしかしたらAさんは肝試しや怪談が苦手なのかしら?と、その時は思ったくらいで、特に深く詮索することもありませんでした。

Aさんに関していうと、初日の活動中、コソコソどこかに電話していたり、子供達との山歩きでも直前になって独断でルート変更してしまったりと、仕事に対してあまり真剣に取り組んでいるようには思えず、私はちょっと毛嫌いする気持ちを持っていたかもしれません。

夕食の時間になり、「この後で肝試しをするよ~」と発表すると、案の定、子供達から大歓声が上がりました。

「やだ~、怖~い」と言う女の子もいましたが、周りの雰囲気にあてられてか、怖いながらも楽しみにしているように見えました。

肝試しの直前、夕食の後片付けをしている時でした。
Aさんが他の指導員Bさんと何か話し込んでいるところを見かけました。

「…やっぱり、肝試しはやめときましょう」

そう訴えるAさんの声が聞こえました。

「子どもたちがあんなに楽しみにしとるんだけ、理由もなく中止にはできんだろう」

と、苦い顔をして言うBさんに、

「いや、でも危険だと思うんです」

と、Aさんは食い下がっていました。

すると他の人がBさんを呼びに来たので、話はそこで中断され、Aさんは溜め息をついてトボトボとどこかへ行ってしまいました。

さすがに私もあんなに真剣に肝試しを拒む理由が気になってしまい、Aさんの後を追って直接わけを聞いてみたんです。

「ああ、聞いとったんですね・・・」

と、始めこそ私に話し掛けられて驚いた様子のAさんでしたが、やがて諦めたようにこう言いました。

「肝試しはもう決定してしまったのだから仕方ないです。でも・・・これから話すことは、子供たちや他のボランティアスタッフには絶対に口外しないで下さい」

と念を押した上で、Aさんはこんなことを話し始めました。

Aさんは、この仕事に就く前はレスキュー隊として山岳救助に加わっていたそうです。
レスキューを退職した理由は、山での救助中に大きな怪我をしたこと。それと、山での救助活動に精神的に疲れ切ってしまったとのことでした。

「山ってな、実は遺体が多いんだよな」

と、Aさんは独り言みたいにぽつりと言いました。

山には事故だけでなく、自ら命を絶ちに来る人も多く、亡くなってからかなり経った遺体を木から降ろすのは本当にきつかったと、Aさんは虚ろな目で続けます。

「昨日、僕が山歩きのルートを変更したの、知っとるでしょ?」

と言われ、そのことに不満に抱いていた私はハッとしました。

実は昨日、Aさんがコソコソどこかに電話していた理由は、散策ルートの下見中、近くで首を吊った遺体を発見したため、救助隊に連絡していたそうなのです。それで子どもや私たち学生に動揺を与えないようにと、直前になって散策ルートを変更した、ということだったようです。

「それが、ただ自殺しただけじゃなく、なんというか、よくない思いが残っとるというか・・・そこに居たらいけんもんがおったというか・・・」

Aさんの表情が曇っています。

「それって…なんですか?」

私は恐る恐る聞きましたが、Aさんは首を横に振ると、

「いや、僕にも分からん。…でも、とにかく良くないもんがそこにおった。自分の命を担保に、何か強い念をかけたのかもしれん。ともかく、塩と酒で簡単に清めたけど、僕はお祓いなんてできんけな…」

そう言ったのを最後に、Aさんは口をつぐんでしまいました。

その夜、肝試しは予定通り行われました。

スタート前、私の怪談話はというと、しどろもどろで、怖い話として成立もしていなかったように思います。
失敗したと落ち込んでいると、どこかに行っていたAさんが戻ってきて、肝試しの演出だと言って子どもたち全員にお札のようなものを持たせました。これが子どもたちに大うけで、みんな面白がってお札を受け取り肝試しに出かけて行きました。

しばらくして、続々と帰って来る子供たちの中には、風もないのに草むらが揺れたとか、突然フクロウが鳴いたとべそをかいている子供たちもいましたが、ひとまず全員無事に肝試しを終えることが出来ました。

肝試しの後、「お札の演出すごく良かったですね」とAさんに話し掛けると、

「近くの神社でもらってきたんよ。今まで山に上がる時は、このお札を持って行っとったけぇな。山は一歩間違えたら取返しのつかんことになるけぇ…」

それだけ言って、Aさんはトボトボとテントに戻っていきました。

その後、Aさんと会う機会はなく、あれから何年も過ぎました。

今でも時々あの日のことをふと思い出すことがあります。

Aさんがレスキュー隊を退職した理由を聞いた時、

「色々あったけぇな・・・」

そう言ってAさんは、自分の怪我や、救助活動に疲れたのが退職の理由だと言っていました。

でも、あのキャンプの日、遺体を見つけたAさんの焦燥した表情を思い出すと、もしかしたら救助隊を辞めた理由は他にあるのではないかと、今になって気になったりします。

「そこに居たらいけんもんがおった…」
「自分の命を担保に、何か強い念をかけたのかもしれん…」

あの日、暗い顔でそう話していたAさん。

Aさんはあの山で一体何を見たのか…

あそこで亡くなった人は、自分の命と引き換えにどんな念を残したのか…

今となっては何も分かりませんが、思い返すと妙にゾクリとする体験でした。

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